元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「なんで先生は何にも憶えていないんですか~~」
がっくりと机に突っ伏した私に先生は追い打ちをかけるように冷たい言葉を浴びせる。
「何度言われても憶えていないものは憶えていません。花咲さん、将来は小説家志望ですか? でしたら今からでも文学部のある大学を」
「だからこれは創作じゃないんですってば~」
――そう。先ほどの話はフィクションではなくノンフィクション、私の前世での実話なのだ。
そのことを思い出したのはつい先日、この高校に赴任してきた先生を目にした瞬間だった。
体育館の壇上で自己紹介をする先生を見ながら一気に蘇った前世の記憶に私は知らずのうちに涙を流していた。
まさに、運命だと思った。
「クラウス!」
彼がひとりになるときを待って背後から前世での名を呼ぶと、彼はぴたりと足を止めた。
だから私は続けて叫んだ。
「私です。セラスティアです! またこうして会えるなんて……!」
「……」
こちらを振り向いた彼は涙をいっぱいに溜めた私を見て、ゆっくりと首を傾げた。
「ひょっとして私に言っていますか?」
「え……?」
そして彼は眼鏡の位置を直し続けた。
「花咲さんは演劇部でしたっけ? いやぁ、迫真の演技でした。ですが私は演劇はさっぱりで。お相手なら誰か他の方を当たってください」
彼は……クラウスは私のことを憶えていなかった。
私はショックと恥ずかしさのあまり、それから3日学校を休んだ……。