元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「……、……っ」
誰かが声を押し殺して泣いている。
視界がとても暗くて、その顔が見えない。
もう日が暮れたのか、それとも私は今、目を閉じているのだろうか。
でも、この声はわかる。
先生だ。大好きな結城先生が来てくれたのだ。
「……私はまた、……あなたを……なかった」
なのにその声も、もう殆ど聞こえなくて――。
「……」
先生に、泣かないでと言いたいのに。
言いたいことが他にもたくさんあるのに、もう声も出せないみたいだ。
最後に大好きな先生に触れたいのに、もう指先すら動かせないみたいだ。
「……っ!」
でもその手を、先生が強く握ってくれたのがわかって、私はもうそれで満足だった。
「……! ……っ!」
遠退いていく意識の中、大好きな先生の声に抱かれて私は一番の幸せを感じていた。
「!?」
目を開けると、見慣れた天井が見えた。
ドクンドクンと酷く早い心臓の音が頭にまで響いている。
走った直後のように荒い呼吸を繰り返しながら目だけを動かしていく。
まだ夜明け前なのか薄暗いけれど、確かに私の……『レティシア』の、寮の部屋だ。
ゆっくりと首を回すと隣のベッドにはアンナが寝ていて、そのことに安堵して、ふうと長い溜め息を吐く。
(……今のは、夢?)
夢だけれど、違う。
今のは――。
「私の、もうひとつの、記憶……?」