元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
続けて私は目の前の彼をびしっと指差す。
「そしてお姫様が秘かに想いを寄せていた騎士の生まれ変わりが貴方です。ユリウス・フォン・レヴィ先生!」
「はっはっは。それはまた運命的な再会ですねぇ」
古い書物が両側に積み重なった机の向こうで銀の髪をオールバックにした彼、歴史教師のユリウス先生は中指でクイと眼鏡の位置を直した。
そんなちょっとした仕草も本当に様になっていて思わず見惚れてしまうくらいにカッコいい。
ただその表情筋は先ほどから死んだまま。「はっはっは」なんて言っているけれど顔は全く笑っていない。
「なのに、なんで先生は何にも憶えていないんですか~」
がっくりと机に突っ伏した私に先生は追い打ちをかけるように冷たい言葉を浴びせる。
「何度言われても憶えていないものは憶えていません。ミス・クローチェ、将来は作家志望ですか?」
「だからこれは作り話じゃないんですってば~」