元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「今日ずっと上の空だけど、何かあった?」
「あ……えっと」
友人が心配してくれている。
でも前世の話をしていないアンナに、今感じているこのモヤモヤをどう説明していいかわからない。
(今更、自分の気持ちがわからなくなったなんて……)
「なんだ? とうとうすっぱり振られたか?」
軽い笑みを浮かべ私たちの前に現れたのはラウルだ。
私はそんな彼を睨みつける。
「別に、振られてなんていないもの」
「どうせ全然相手にされてないんだろ。いい加減諦めたらどうだ? というか、やめとけあんな男」
カチンときて、私は視線を逸らし机の上に出ていた教科書や筆記用具を片づけ始めた。
「ラウルには関係ないでしょう」
「俺はな、忠告してやってるんだよ」
ラウルの声音から小馬鹿にしたような雰囲気が消えて、私は顔を上げた。
「忠告?」
「知ってるか? アイツの噂」
「ラウル!」
隣でアンナが慌てたような声を上げた。
ラウルが珍しく神妙な顔をしていて。
「例の誘拐事件あるだろ。アイツがその犯人なんじゃないかって噂になってんだよ」