元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第三十五話
「あいつマジ何処にいんだよ……」
そんな嘆息交じりのぼやきが聞こえて、先生の椅子で古い書物を読んでいた私は顔を上げた。
ラウルがソファの背もたれに寄り掛かり天井を睨んでいた。
そのすぐ後ろの本棚の前で何かの資料を見ていたアンナもそれに応えるように小さく息を吐いて。
掛け時計に視線を移すと、そろそろランチタイムだということに気付く。
――あれから皆で部屋の中を捜索しているけれど、未だ先生の行方の手がかりになるようなものは見つかっていなかった。
そして今私の身体に起きている異変についても、何冊か聖女に関する書物を読んでみたがそれらしき記述は見当たらない。
(やっぱり、大人しく先生の帰りを待っていたほうがいいのかな……)
授業を無断欠席してまで付き合ってくれている皆にも申し訳なかった。
先ほど一度、皆はもう教室に戻ってと声を掛けたけれど、アンナとラウルふたりから同時に「何言ってるの」「何言ってんだ」と怒られてしまった。
「授業なんか今はどうでもいいだろ」と。
その気持ちはすごく有り難かったけれど、私が明日死ぬかもしれないというのはあくまで推測に過ぎなくて。
現に今はこうして普通に動ける。聖女の証も見た目は酷いけれど痛みなどは特に感じない。
このまま明日も明後日も普通に来て、何事もなく平和に過ぎるのかもしれない。
そんな不確かなもので皆の時間を奪ってしまっていることに罪悪感を覚えていた。