元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
皆が手を止めこちらを見た。
そうだ。見覚えがあると思ったら、憲兵たちが制服の胸元に着けているバッジだ。
憲兵隊――王立ベルヴェント国家憲兵隊はこの王国の治安を守るための組織。平和な今は宮殿や貴族の邸宅などの警備に当たったり街中を巡回している姿をよく目にするけれど、有事の際には軍としても機能する。
「それも、金バッジということは指揮官クラスのものですね」
そう冷静に続けたのは、マルセルさんだった。
確かに、街中でよく見かける憲兵たちのバッジは銀色だった気がする。
「なんでそんなもの、あいつが持ってんだよ」
訝しむように言ってすぐにラウルはハッとした顔をした。
「ちょっと待てよ。そういえばあいつ、前に王子様をとっ捕まえたとき信用のおけるやつに頼んだとか言ってたよな」
「言ってた!」
リュシアン様本人の前で失礼極まりない物言いだが、それどころではなかった。
「それってどこの誰なんだよってずっと気になってたんだけどよ……」
「確かあのとき先生、当局に連れて行くって……」
私たちの視線に気付いてリュシアン様が顔をひきつらせた。
そして目を逸らし、ふてくされるように答えた。