元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「なら、顔に傷のある男を呼んでくれないか」
私の横に立ち尊大な態度で言ったのはリュシアン様だ。
案の定、男の顔が険しいものになりヒヤリとする。
「顔に傷のある男だと?」
「ああ、その男に訊きたいことがあるんだ」
「訊きたいこととはなんだ?」
「お前に言ってもきっと通じない。顔に傷のある男だ。ここにいるだろう?」
「……お前たちは一体何なんだ。ベルトリーニ学園の生徒のようだが、授業はどうした?」
逆に問われマズイ、そう思った時だった。
「ん~? なんの騒ぎだ~?」
背後からそんな間延びした低音が聞こえ振り返ると、そこには煙草を咥えたもう一人の憲兵が立っていた。
三十代ほどの眠そうな目をしたその男の頬には大きな古傷があって、あっと声が出そうになった。
「お前……!」
「ローレン大佐! 巡回ご苦労様です!!」
リュシアン様が声を上げると同時、門番の男が背筋をピンと伸ばし敬礼をした。
「ローレン大佐!?」
すぐ後ろでアンナが小さく悲鳴のような声を上げるのが聞こえた。
(大佐……?)
「いやまあ昼飯食ってきただけだけどな。んで、君たちは?」
そう言った彼の左胸には、私の手の中にあるものと同じ金のバッジが輝いていた。
憲兵の階級には詳しくないけれど、とにかく門番の態度で偉い人なのはわかった。でも門番ほど威圧感は感じない。