元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「お前、まさか私を忘れたのか!?」
「ん~?」
男は威嚇するように睨みつけているリュシアン様をまじまじと見返しながら首を傾げ、それから「あぁ」と声を上げた。
「リュシアン殿下ではないですか。こんなところで一体どうしたんです?」
……なんとも飄々とした人だと思った。
リュシアン様が隣国の王子だと知っても全く態度を変えない。
更に彼はにやにやと笑って続けた。
「ひょっとして、またなにかやらかしちまったんですか?」
「何もしていない! 本っ当に無礼な男だな!」
リュシアン様は顔を真っ赤にして怒鳴り、それから悔し気に続けた。
「……しかし今は丁度良かった。お前に訊きたいことがあって来たんだ」
「俺にですか?」
「ここにユリウス教師はいないか? お前知り合いなんだろう?」
するとその男は眠そうな目を少し大きくしてから可笑しそうにくつくつと笑った。
「知り合いねぇ」
「何がおかしい!」
と、彼の視線がちらりと私を見た。
「ああそうか。じゃあ、ひょっとして君が例のご令嬢かな」
「え……?」
意味ありげに微笑み、彼は言った。
「ユリウスの奴が憲兵を辞めた原因だ」