元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
中央広場はいつもと変わらない賑わいを見せていた。
憲兵について歩く私たちは一見補導されているようにも見えるけれど、そんな私たちに気を留める者はいないようだった。
小さな子供がローレン大佐に手を振って、大佐は優しい顔つきで手を振り返していた。
「大丈夫? レティ」
隣を歩くアンナが小声で私に訊ねた。
「うん、驚いたけど。先生が強かったのもこれで納得がいったかも」
暴走したリュシアン様を止めたときの先生の素早い動きを思い出す。
元憲兵だったというなら納得できる。きっとラウルも同じことを思っただろう。
ラウルは今リュシアン様とマルセルさんと共にローレン大佐のすぐ後ろを歩いている。
「そうよね、驚きよね。まさか先生が憲兵だったなんて……しかも、あのローレン大佐と知り合いだったなんて」
ローレン大佐の大きな背中を見つめながらアンナが言う。
そういえばさっきもアンナはその名を聞いて驚いていた。
「有名な人なの?」
「知らないの!?」
「う、うん……」
「……そっか、そうよね。レティあんまり歌劇とか見ないものね」
「歌劇に関係ある人なの?」
「歌劇のお話になるくらい有名な人なの。アルベルト様も大佐を演じたことがあるわ。12年前の戦争のヒーローなのよ」