元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「普段は冷めてて何考えてんのかよくわからない奴だけどさ、戦場に出ると人が変わったようになんだよな。なんて言うの……水を得た魚ってやつ?」
私は目を見開く。
クラウスがそうだったからだ。
セラスティアの前では常に優しい笑みを絶やさなかった彼だけれど、いざ剣を手にすると人が変わったようになるのだと聞いていた。
その強さを買われ、彼は私、セラスティアの護衛騎士になったのだ。
「俺が今こうして似合わねぇ“大佐”なんて地位にいられんのも、あいつのお蔭みたいなもんだ」
大佐は中央広場の真ん中、この国の平和のシンボルである女神像の前で立ち止まり、私たちの方を向いた。
「そんな憲兵が天職みたいなあいつが急に辞めるってんだから、どういうことだってなるだろう? んで、理由を問い詰めたらさ、あいつ何て言ったと思う?」
彼は私を見つめ続けた。
「『すぐそばで守りたい人がいるんです』 だってさ」
皆が息を呑むのが聞こえた。
ローレン大佐が可笑しそうに笑う。
「まさかの答えにぽかんとしちまったよな~。でもそれ以外の詳しいことはなっかなか口を割らなくってさ。なんとか聞き出せたのが、憲兵を辞めた後は教師になるってことだ」
アンナが私の肩を優しく抱きしめて、今自分が涙を流していることに気が付いた。