元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「――って、お金!」
「やべ! 俺もなんも持ってきてねぇ」
「私もよ。ちょっと、ここのお代どうするの!」
「わ、わたくしも、ついうっかり食べてしまいましたわ」
「問題ない」
顔を見合わせ青くなる私たちに、平然と告げたのはリュシアン様だ。
「マルセル」
「かしこまりました」
……結局、マルセルさんが私たちの分も全額支払ってくれたのだった。
「本当にありがとうございました。学園に戻ったらちゃんとお返しします」
学園に戻る道すがらマルセルさんに改めてお礼を言うと彼は「いいえ」と軽く首を振った。
「大した額ではありませんからお気になさらず。元よりそのつもりでしたので」
そんなスマートな返しにまた恐縮してしまったけれど、これを機にと私は彼に訊いてみることにした。
「あの、ずっと気になっていたんですが、マルセルさんはリュシアン様の前世の話は前から知っていたんですか?」
「はい。お仕えしてからこれまで散々聞かされてきましたので、かれこれ10年ほど前からになるでしょうか」
「そ、そうだったんですね」
表情に動きがないからか、なんとなく言い方に棘を感じて苦笑してしまう。――でも。
「こいつだけだったからな。私の話を信じたのは」
こちらを見ずにリュシアン様がぼそっと呟くのを聞いて、そんなふたりの関係を少し微笑ましく思った。