元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「離してクラウス! 私、城に戻ります!」
私は声を上げて彼の手を振り払おうとする。
でも痛いほどに握りしめられた手はどうしても離れなかった。
「私はあの人の元へなど行きたくありません!」
「姫様、」
「嫌です! 離して!」
「姫様のためにはそれが一番良いのです」
子供を宥めるかのような優しい声音。
でも今はその声が恐ろしくてたまらなかった。
「嫌です! あの人の元に行くくらいなら王国のために命を捧げます! 元々そのつもりだったのです!」
「姫様!!」
クラウスの聞いたことのない怒号に、びくりと肩を竦める。
「……お願いです、姫様」
またその顔だ。彼の必死さがわかる、酷く苦しそうな顔。
でも今はそんな顔見たくない。
私はゆっくりと首を横に振る。
「そんな……だって、私は」
――あなたが好きなのに。
ついさっき、あなたになら殺されてもいいと心から思っていたのに。
と、そのときクラウスの目つきが変わった。
「追っ手が近いようです」
「!?」
「急ぎましょう」
そうして私は再び彼の手に強く引っ張られる。
追っ手ということは、王国の……お父様の……?
このまま追い付かれたらクラウスはどうなってしまうの?
聖女を逃がした罪は一体どれだけ重いの……?
私は、どうすればいいの……?