元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第四十一話
――それは突然だった。
「ぁ……?」
「姫様!?」
急な脱力感に襲われ、足がもつれた私はその場に膝を着いた。
クラウスに手を引かれていなかったら、顔から地面に着いていたかもしれない。
(なに……?)
すぐさま立ち上がりたいのに足に力が入らなかった。
「申し訳ありません! お怪我は……っ」
すぐそこに寄り添ってくれているはずのクラウスの声がやけに遠く聞こえる。
「クラウス、私……なんだか……」
足だけじゃない。全身に力が入らない。
この身体が、急速に自分のものでなくなっていくような。
得体の知れない何かに身体を蝕まれていくような、恐ろしく気持ちの悪い感覚。
(なに、これ……)
「姫様? 姫様……!?」
クラウスの呼び声は聞こえるのに。すぐ傍にいてくれているのはわかるのに。
視界が酷く悪くて、その姿がよく見えない。
「――間に合わなんだか」
そのとき、クラウスよりも遠く耳に入ってきた重低音はよく知ったものだった。