元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「お父様?」
「陛下……っ」
クラウスの硬く緊張した声。
ガチャガチャと耳を突く金属音は、おそらくお父様が連れてきた兵士たちのものだろう。
「クラウスよ。大変なことをしてくれたな」
失望の響きに気付いて、私は精一杯の声を上げる。
「お父様、違うのです! 私が……私が急に恐ろしくなりクラウスに助けを求めたのです!」
「姫様!?」
「私は今すぐに城に戻ります。ですから、どうかクラウスは――」
落胆の溜息が聞こえた。
「もう遅い」
「え……?」
「聖女がそうなってしまっては、もう遅いのだ。セラスティア」
(そうなって……?)
私のことを言っているのだろうか。
己の姿を確かめたくとも、それすらもう見えなくて。
「陛下。一体、姫様に何が……」
クラウスの声がはっきりと震えていた。
「聖女の器に、限界が訪れたのだ」
「限、界……?」
お父様が冷たく続ける。
「聖女はこれまでに多くの奇跡を起こしてきた。その代償が、これだ」
(代償……?)
クラウスは言葉を失くしたようだった。
そしてまた大きな溜息。
「最期に最大の奇跡を起こしてもらう筈が。これは王国にとって大きな損失だぞ、騎士クラウス」