元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「 姫様、―― 」
最期、クラウスの声を聞いた気がしたけれど、もうセラスティアの耳には届いていなかった。
このときセラスティアはただ祈っていた。
もう聖女の奇跡は起こらないとわかっていたのに。
それでも。
つよく、つよく、願っていた。
――もしももう一度奇跡を起こせるのなら、生まれ変わってもまた、クラウスに逢いたい……。
これが、セラスティアの記憶の全て。
明け方に目を覚ました私は、傍で眠る友人たちを残し部屋を飛び出した。
⚔⚔⚔
(逃げなきゃ)
私は走っていた。
(誰もいない、どこかに)
人気のないまだ薄暗い街中を、行き先も決めずにただ走っていた。
(この身体に限界が訪れる前に。また化け物になってしまう前に)
今、私の胸にある聖女の証はまるで茨の蔓のように全身に広がりつつあった。
きっと、これが全身を覆いつくしたときに私は死ぬのだろう。
(誰にも見られない場所に逃げなきゃ)
怖かった。
化け物になるのも。
皆にその姿を見られるのも。
死ぬのも。