元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第四十二話
「先生……?」
いつもはきっちりと後ろへ撫でつけられた銀の髪が乱れ、一瞬別人のように見えたけれど、間違いなくそれはずっと会いたかったユリウス先生で。
でも、その手に握られた見覚えのある剣を目にして私は青くなった。
「い、や……っ」
なんとかふらつきながらも立ち上がることの出来た私は彼から逃げようとした。――が、数歩進んだところで足がもつれ無様にも前のめりに転倒してしまった。
「!?」
頬に鋭い痛みを覚えて、でも足音がすぐそこにまで迫っているのがわかって恐る恐る振り返れば、彼が私に手を伸ばしていた。
「ひ……っ」
「落ち着きない。ミス、」
「こ、来ないで……っ!」
そして私は見てしまった。
転んだ拍子に破れてしまったらしい服の袖の裂け目から、手の甲にまで伸びた赤黒い茨の蔓を。
ぞっとする。自分では見えないだけで、すでに顔も醜く変貌しているのかもしれない。