元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「ぅぐ……っ」

 ――え?

 呻き声と共に彼の身体がぐらりと倒れていく。
 その向こうに、剣を構えた【彼】が立っていた。

「――くくっ、ははははは!」

 【彼】が笑う。人が変わったような大きな声で。
 それは。彼は――。

「マルセル……?」

 リュシアン様の呆けたような声が聞こえた。

「このときを待っていました。邪魔な騎士を先に排除し、今世でも聖女を葬るこのときを!」

 狂ったような笑い声を耳にしながら、私はゆっくりと起き上がり目の前に力なく倒れている身体を見下ろす。
 その背中からどす黒く広がっていくものを焦点の合わない目でただ見つめる。

「マルセル、お前、一体……」

 リュシアン様が震える声で訊ねると、彼はぴたりと笑うのを止め主の方へと首を向けた。

「私ですか? 私も昔、あなた方と同じ時を生きた転生者ですよ」
「!?」
「まぁ、私はあなた方とは違い、一市民でしたけれど。――聖女亡きあと、貴方が滅ぼした王国のね」

 リュシアン様が息を呑む。
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