元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第六話
急ぎ振り返って目に映ったのは、ローブを羽織った長身の男性だった。
フードを目深に被っているせいで顔がよくわからないけれど、男性だとわかったのはその声と体格からだ。
見えている口元が不気味に笑う。
「久しぶりだね」
私は後退りながら訊く。
「だ、誰!?」
久しぶり、ということは以前会ったことがあるということだ。
するとその人はくすりとまた笑った。
「酷いなぁ、自分の婚約者を忘れてしまうなんて」
「!?」
――婚約者?
そのとき、私を押しのけるようにして前に出てくれたのはラウルだった。
「レティシアの婚約者はこの俺だが? なんなんだお前は」
柄悪く問うラウル。
(というか、ラウルとは許婚ってだけで婚約はしてないけど)
こんなときでなければそう訂正したかったけれど、アンナが私の腕を強く握ってきて、その小刻みに震える手に私は自分の手を重ねた。――アンナもこの人の異様な雰囲気に怯えているのだ。
しかしそれを聞いてその人は嬉しそうに声を上げた。
「レティシア! そう、今はそういう名なんだね」
「はぁ?」