元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第八話
夢を見ていた。
「嫌よ!!」
セラスティアがソファに突っ伏して泣いている。
「なんで私があの人の婚約者にならなくてはいけないの!?」
「姫様……」
傍に控えているクラウスの困ったような雰囲気が伝わってくる。
「王陛下も仰っていたではないですか。形だけのものだと。実際に彼の元へ嫁ぐわけではないのですから」
「それでも嫌なものは嫌なの!」
これでは小さな子供が駄々をこねているようだ。自分でもそうわかっていた。
それでも言わずにはいられなかった。
とても悲しかったから……。
クラウスが反対してくれなかったことが、何より悲しかったから。
クラウスは、私の意思よりも王国の騎士という立場を優先させたのだと思ったから。
「私、あの人と婚約するくらいなら国を出るわ」
「!?」
「聖女もやめる。そうよ、そう言えばあのわからずやのお父様だって」
「……姫様。ご冗談にしても度が過ぎますよ」
「!」
クラウスの声が真剣に怒っていて、唇を噛む。
(冗談じゃないのに……)
それほどに嫌なのだと、わかって欲しいのに。