元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
また涙が溢れてくる。
「だってあの人、何を考えているのかさっぱりわからなくて……怖いんだもの……」
ルシアン様のあの笑みを思い出して肩を震わせていると、クラウスが小さく息を吐いていつもの優しい声で言った。
「私が傍におります。姫様のことは私が全力でお守りしますから、そんなに心配なさらずとも大丈夫ですよ」
……そうじゃないの。
そうじゃないの、クラウス。
私は騎士の立場を捨ててでも、貴方に一番に反対して欲しかったの……。
(あぁ、そうか。あの頃の私も、今の私も結局……)
やっと眠れたと思ったのに、すぐに目が覚めてしまった。おそらく眠れたのは2時間ほど。
私は涙の跡を拭って、ゆっくりと身体を起こした。
まだ部屋の中は暗い。夜明け前だ。
アンナが隣のベッドで静かに寝息を立てていて、少しだけ心が癒された気がした。……でも。
ふぅと溜息を吐く。
夜が明けたら、私はこの学園を出て家に帰る。――先生と離れ離れになる。
おそらく学園に戻って来られるのは、ルシアン様が捕らえられて私の安全が確実なものになってからだろう。