元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「力がない? 全く? 聖女の証が今もあるのに?」
彼が自分の胸元をトンと指で軽く叩くのを見てギクリとする。
思わず隠すように胸元に手を当てると、彼はまた笑った。
「わかるよ。その力に惹かれてこうしてまた君と逢うことが出来たんだ。大分時間は掛かってしまったけどね」
と、そこで彼は何かに気付いたように「あぁ」と手を打った。
「ひょっとして、今世ではまだ力を使ったことがないのかな。それなら丁度良かった!」
「え?」
何が丁度良かったのかと疑問に思っていると、彼は寮入口の植え込みの方へと視線を送った。
「ついさっき、今の君の婚約者だっていう男が急に襲い掛かって来てね。びっくりして思わず返り討ちにしてしまったんだ」
ざわりと、全身が粟立つ感覚。
(今の婚約者って……)
私は震える足でそちらへ向かう。
綺麗に剪定された植え込みの陰に、まず投げ出したような長い両脚が見えた。そして。
「ラウル……?」
力なく横たわる幼馴染の白いシャツが真っ赤に染まっていた。その傍らには血で濡れたナイフが落ちていて――。
「ラウル!!」
絶叫を上げて駆け寄るけれど彼からは何の反応もない。その顔は真っ白で、まるで……。