元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
第十話
――私なら、出来る?
クラウスの……いや、ユリウス先生の言葉に突き動かされるように私はすぐそこに落ちていたナイフを手に取った。
思い切って血の付いていない柄に近い方の刃に指を滑らせると、ちりっとした痛みが走りじわじわと血液が浮き出てきた。
反対の手で制服の襟元を開け、夢でセラスティアがしていたように薔薇の証にその血を塗りこむ。
あとは目を閉じて一心に祈るだけだ。
(お願い、助かって……!)
両手を組んで強く、強く奇跡を願う。
聖女の証が少しずつ熱を持ち始める。――この感覚には憶えがあった。
その熱が徐々に全身に広がって、瞼の裏が綺麗な薔薇色に染まっていく。
――大丈夫。
セラスティアもこうして数々の奇跡を起こしてきた。
だから、もう大丈夫……!
(目を覚まして、ラウル!)