元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「……うっ」
小さな呻き声が聞こえて目を開けると、ラウルの身体が淡く薔薇色の輝きを放っていた。
『薔薇色の奇跡』……あの頃、そう呼ばれていた輝きが役目を終え霧のように消えていく。
目を背けたくなるほどに真っ赤に染まり破れていたシャツも新調したかのように綺麗になっていて、彼自身の傷も塞がっているはずだと確認しなくてもわかった。――そういう確信があった。
「ラウル?」
「……っ」
名前を呼ぶと彼がゆっくりと瞼を上げていき、その瞳が私を見上げた。
「……レティ……?」
寝惚けているかのようなぼうっとした瞳が、次第に正気を取り戻していって、
「俺……!」
ガバっと彼は勢いよく起き上がった。
そしてすぐに思い出したのだろう、刺された場所を見下ろし恐る恐るというふうにそこに触れてからシャツを一気にたくし上げた。
やはり、その場所に傷はない。
「なんで……だって俺、アイツに刺されて……っ!」
と、ラウルはすぐ傍に落ちていた自分の血で濡れたナイフを見つけたようだった。
「一体、なにが……」