元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「僕も昔、護身術を習ったことがありまして、それが今回役に立ったということです」
「~~っ、あーそうかよ!」
ラウルが悔しそうに先生の机から離れた。
「僕に訊きたいこと、というのはこれで全部ですか?」
「まだだ。……あんた、本当に前世のこと何にも憶えてないのか?」
まさかの問いにどきりとする。
「クラウス、だっけか? レティもあの王子も前世のあんたのことを憶えてるのに、あんただけ記憶がないなんておかしくないか?」
「そう言われましても」
「――あっ」
そのときふと思い出して私は声を上げた。
皆の視線が私に集まる。
「そういえば先生……私が聖女の力を使う直前、私のことを『姫様』って……」
「!?」
――あのときはとにかく必死で今まですっかり忘れていたけれど、確かにあのとき先生の口から聞いた気がした。
『姫様ならきっと出来ます』、そう確かに。
(もしかして、先生……)
先生の紫水晶のような瞳がまっすぐに私を見ていて期待に胸が高鳴る。
でも、先生は小さく息を吐いてからその目を伏せてしまった。
「あのとき貴女は完全にパニック状態でしたから、僕がそう呼べば少しは冷静になれるのではないかと……期待させてしまったのなら申し訳ありません」
そうして先生は私に頭を下げた。