元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「良かったわね、レティ!」

 アンナが嬉しそうに言ってくれて、私は笑顔で頷く。

「あぁ、そうだ……」

 と、先生が何かを思い出したように身体を傾け机の引き出しを開けた。

「ばい菌が入るといけませんので、良かったら使ってください」

 そうして差し出されたのはなぜか絆創膏だった。

「え?」

 瞬間何のことかわからなかったけれど、先生が私の手を指差してあっと気が付く。
 先ほど聖女の力を使うのに指を少し切ったのだった。


 ――姫様。すぐに手当てしますので手をお出しになってください。


 そういえば、クラウスもいつも私が奇跡の力を使った後に応急処置をするための薬や包帯を持ち歩いてくれていた。
 前世のことを憶えていなくても、同じことをしてくれたことが嬉しくて。

(それに、私も忘れていたこんな小さな傷を覚えていてくれたんだ)

「ありがとうございます。ユリウス先生!」

 私は満面の笑みでそれを受け取った。
 背後でラウルがまた小さく舌打ちするのが聞こえたような気がしたけれど。

(やっぱり私、ユリウス先生のこと大好きだなぁ)

 このとき、私は改めてそう思ったのだった。

< 80 / 260 >

この作品をシェア

pagetop