男装令嬢は竜騎士団長に竜ごと溺愛される
ここは何処?
辺りを見渡すと紫の可愛らしい花が咲き乱れる花畑だった。こんな雪もパラつく寒い季節にお花が咲き乱れるなんて…。
不思議に思いサラは一歩ブルーノから離れ前に歩み出す。
空気が温かい?
先程までいたリュークのお墓からそんなに離れていない筈なのに、はるかに暖かく着ているコートも脱げるほどだった。
花畑をそっと歩いて中央に進むと小川が流れる場所にたどり着く。
小川を辿って水が集まる方に進む。
振り返るとブルーノは先程降りた場所に腰を下ろし丸くなってくつろいでいる姿が見える。
ブルーノがあんなにリラックスしているのなら安全な場所なんだとサラはホッとして、前に進む。
綺麗……
少し歩くと七色に輝く湖にたどり着いた。
それは言葉でいい表せないぐらいの風景でまるで桃源郷だった。
天国があるのならばきっとこのような景色なんだろうと思わせるほど美しい場所だった。
さっきまで涙も枯れる程泣き続け、絶望感でいっぱいだったサラの心に温かい火が灯る。
湯気が立ってる?
そっと湖に手を入れる。
温かい。
無意識に湖の中に足を運んでいた。
お湯が沸いているのね。
湖の底からポコポコと小さな気泡が湧き出ている場所がいくつかある事に気づく。
『小さな森をぬけると目も醒めるような美しい花畑があるんだ。サラがブルーノに乗れたら見せてやれるのに、残念だなぁ。』
ふと、リュークの言葉を思い出す。
この辺境の地に辿り着いた時、リュークはブルーノに乗り辺りを探索しに出かけた。そこで温泉が湧き出す温かい湖があったと話していた。
ここがお兄様が言っていた場所ね。
心が癒されるような桃源郷。
お兄様がまるで私を励ましてくれているようだわ。
泣いていてもどうしようも無い。
前を向いて生きなくちゃ。
これからどうすればいいか考えなくちゃ。
お父様の無実をどうにかして証明したい。
それだけが兄妹2人の生きる希望だった。
ふと遠くを見ると向こう岸に一匹の鹿が足を引き摺りやってくる。
怖がらせないようそっと近くの岩に隠れて様子を伺う。
足から血を流し怪我をしているようだ。
鹿は湖に足をつける。
流れた血が湖の中に溶け込む。
するとキラキラと一瞬眩しく光って目が眩む。
サラは瞬きをしてその光景に息を呑む。
えっ…何で⁉︎
…傷が治った⁉︎
この湖には本当の癒し効果があるようだ。
鹿はピョンピョンと2回飛び跳ね、今きた道を元気よく駆けて戻っていく。
凄いわ。
もしかしたらこの湖の水は病気も治してくれるのかしら。
兄に飲ませられていたら病気が治っていたかもしれない。
そんな事を考え涙が溢れそうになったが、気を取り戻して今を生きる為、前向きになる事を兄に誓う。