自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 俊介先生のはにかむ笑顔に首筋がちょっぴり熱くなる。

「波島くん、あまり年上をからかうものじゃないよ」
 たしなめ方もおっとりしていて、暖かいお日さまみたいな先生。

「人見先生ってイケメンなの自覚してないから、イケメン指摘されると照れて赤くなるんだよ」

 私にイタズラを言い付けるみたいな愛嬌がある笑顔を浮かべる朝輝先生。
 イケメンの爽やかな笑顔の魔力は凄い。場がいっぺんに華やかになる。

「控えめが良いんだろうね。人見先生は飼い主たちから二番目に人気があるよ」
「一番目はどなたですか?」
 まさか敬太先生じゃないよね、朝輝先生かな。

「もう少ししたら答えが分かるよ」
「朝輝先生じゃないんですか?」
「いいね、そのびっくりした顔も可愛い。阿加ちゃんの中では、僕が別格なのは知ってる」

 なんとも言えない表情でしょう? 私と目と目が合った俊介先生の苦笑いで分かる。

「さあ立ち話もなんだから、どうぞ座って」
 私の両肩に手を置き、座らせてくれた朝輝先生に仕事はないかとたずねて腰を浮かせた。

「まだ休憩時間だよ。メリハリつけて、しっかり休んで。あの二人みたいにね」

 朝輝先生の視線の先を見れば、敬太先生と葉夏先生がそれぞれ別のソファベッドで横になっているのが見える。

「もう寝ているんですか?」
 朝輝先生と俊介先生に聞こえるぐらいに声を押し殺す。

「どこでも秒で爆睡できる図太い神経がなきゃやってけないからね」

 寝ている二人の姿を遠目に見ている朝輝先生の温かな眼差しで、このチームの温かな佇まいが想像出来る。

「デスクや本棚もあるから勉強や仕事も出来る。阿加ちゃんも好きに使ったらいいよ」
 先生たちは、ここで仕事の合間に勉強をしたり論文を書いたりするわけね。

「医局とは名ばかり。ここは仕事の残りを片付ける部屋でもある。途中で絶え間なく呼ばれるから集中出来ず効率が悪い」

 コンパクトなキッチンに立つ俊介先生がちょっぴり眉を下げる。

「僕はテレビ鑑賞や読書が多いな。ただ寝るっていうのもあり」
 俊介先生の言葉に続く朝輝先生が愛しそうに、遠くで仮眠している敬太先生と葉夏先生を見つめている。

「阿加ちゃんのデスクはね、あそこ」
 デスクは個々に与えられていて、朝輝先生の視線の先に目を向けたら看護師の私にも真新しいデスクが用意されていた。

 新品同様のデスクは、前にいた数々の看護師たちがほとんど使わず逃げるように辞めていったことがよく分かる代物。

 私がいた非枝チームより広さはもちろん、置いてある家具を筆頭に、なにからなにまでランクが上なのは選ばれしエリート精鋭集団の持ち場だからかな。

 専用のチームの医局をもらえるだけでもありがたいと思わなくちゃなんだけれど、私のチームは非枝先生以外は押し込められていた。

 ここみたいに自由に振る舞える広くゆったりした部屋は珍しいと思う。
 さすがに情報通のユリちゃんも医局の内部までは耳に入ってこなかったんだ。

 勉強や仕事もだけれど、医局なだけあって十分くつろげる冷蔵庫やテレビやソファも充実している。

「男の先生が多いのに綺麗に片付いてますね」
 遠慮がちに視線だけで室内を一周見渡した。

「塔馬先生と矢神先生と僕はアバウトで大ざっぱ」
「波島くんは見た目からは想像付かないけど豪快なんだよ」
 物は言いようで大ざっぱも豪快と言えば男らしく聞こえがいい。

 コーヒーカップを手にした俊介先生の立ち姿は、隙がないほどの完璧なスタイルで、「どうぞ飲んで」と、長身を屈めながらテーブルにコーヒーを置いてくれた。 
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