自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
第ニ章 この人が噂の
ドクターコートをルーズに肩に引っかけて、広い歩幅でゆっくりと歩いて来るブルーのスクラブ姿は、無駄の贅肉もついてなくすらりとした長身。
「お疲れ様です」
俊介先生と朝輝先生と三人で、ほぼ同時に挨拶をした。
「お疲れ、この子はどこの子?」
首にかけた聴診器を外し、テーブルに置いた険のある目もとには特徴的な涙ぼくろ。
俊介先生と朝輝先生の顔を交互に見て答えを待っているみたい。
目尻は長く切れて鼻は高くて、唇は口角がきゅっと上がっていて、よく締まっている。
その顔からは、ひとめ見て堂々としている自信家な人って分かる。
綺麗な顔をよりいっそう引き立てるキリリとした眉も、いっさい動かさない切るような鋭い視線で見下されているから一瞬で目をそらした。
眼力が強くて目が合ったら氷にされそうなんだもん。
動けない私の肩にそっと手を置いた朝輝先生が「大丈夫、僕にまかせて」って、声をかけてくれた。
瞬発力があって反応が抜群にいい朝輝先生が、誰よりも先に口を開いて私のことを説明してくれたから自己紹介をした。
「ん、よろしく」
低い声は棒読みで興味がないような素っ気ない生返事。
これ系の返事には、いつまで経ってもどうも慣れない。
動物看護師が飛ぶのは通常なのか、まったく話題にならないんだ。
そうだ、院長チームのルールがある。院長にも下の名前を聞かないと。
そびえ立つような長身を仰ぎ見ると、無造作に流れている前髪のあいだから見える知的で精悍な目と目が合った。
「なに? まだなんか用?」
早く言うように急き立てられるから早口になる。
「い、院長の名前を。下の名前を教えてください」
「隼人、道永隼人」
素直に教えてくれた。隼人院長か。
「は、や、と」
今度は小馬鹿にしたように一言一句ゆっくり切って言われた。
「よろしくお願いします、隼人院長」
「なんで、この子は俺を下の名前で呼ぶんだ? なあ」
顎を上げて、先のほうにいる朝輝先生に聞いている。
「この巨大なセンターで院長は俺ひとりだ。多数在籍している獣医ならまだしも、なにもわざわざ俺を下の名前で呼ぶ必要はない」
「私が答えます」
「波島に聞いてんのに。言えよ、早く」
眉間に険しい皺を寄せて顎先を軽く突き出して催促された。
「朝輝先生が下の名前で呼ぶことがルールだとおっしゃいました」
「うちのチームの?」
「はい」
「ふぅん、初耳」って言った以外、特になんの反応もなく椅子に座ってデスクに足を乗せた。
「隼人院長、ダメです。デスクは足を乗せるところじゃありません。おろします」
「おい、なんだよ?」の声を尻目に、酷く重い足を一気におろした。
「非常識にも程がありますよ」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔を初めて見た。
「今まで良かったかもしれないですが、この瞬間から乗せたらダメです」
「二代目矢神か? こんなアニテク、理事長に頼んだ覚えはないぞ」
ぽかんと見ていた朝輝先生が私に駆け寄って来た。
「ねぇ、ちょっとなにしてんの、こっちへおいでって」
歯を食い縛って前歯の間から声を出している。
背中で椅子に座っているのかと思うぐらい深く腰かけていた隼人院長が、顔面にタバコの煙でも吹きかけられたような煙たい顔で、頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせてくる。
「なんだよ、まだ用があんのかよ?」
面倒くさそうな顔と声。
「どうして、私が隼人院長のチームに異動なんですか?」
「くじ引きだ」
「くじ引きだったんですか」
「しかも貧乏くじを引いた」
「私がですか?」
「ふざけんな、引いたのは俺のほうだ」
見上げる顔は蛍光灯に照らされて眩しそう。
「お疲れ様です」
俊介先生と朝輝先生と三人で、ほぼ同時に挨拶をした。
「お疲れ、この子はどこの子?」
首にかけた聴診器を外し、テーブルに置いた険のある目もとには特徴的な涙ぼくろ。
俊介先生と朝輝先生の顔を交互に見て答えを待っているみたい。
目尻は長く切れて鼻は高くて、唇は口角がきゅっと上がっていて、よく締まっている。
その顔からは、ひとめ見て堂々としている自信家な人って分かる。
綺麗な顔をよりいっそう引き立てるキリリとした眉も、いっさい動かさない切るような鋭い視線で見下されているから一瞬で目をそらした。
眼力が強くて目が合ったら氷にされそうなんだもん。
動けない私の肩にそっと手を置いた朝輝先生が「大丈夫、僕にまかせて」って、声をかけてくれた。
瞬発力があって反応が抜群にいい朝輝先生が、誰よりも先に口を開いて私のことを説明してくれたから自己紹介をした。
「ん、よろしく」
低い声は棒読みで興味がないような素っ気ない生返事。
これ系の返事には、いつまで経ってもどうも慣れない。
動物看護師が飛ぶのは通常なのか、まったく話題にならないんだ。
そうだ、院長チームのルールがある。院長にも下の名前を聞かないと。
そびえ立つような長身を仰ぎ見ると、無造作に流れている前髪のあいだから見える知的で精悍な目と目が合った。
「なに? まだなんか用?」
早く言うように急き立てられるから早口になる。
「い、院長の名前を。下の名前を教えてください」
「隼人、道永隼人」
素直に教えてくれた。隼人院長か。
「は、や、と」
今度は小馬鹿にしたように一言一句ゆっくり切って言われた。
「よろしくお願いします、隼人院長」
「なんで、この子は俺を下の名前で呼ぶんだ? なあ」
顎を上げて、先のほうにいる朝輝先生に聞いている。
「この巨大なセンターで院長は俺ひとりだ。多数在籍している獣医ならまだしも、なにもわざわざ俺を下の名前で呼ぶ必要はない」
「私が答えます」
「波島に聞いてんのに。言えよ、早く」
眉間に険しい皺を寄せて顎先を軽く突き出して催促された。
「朝輝先生が下の名前で呼ぶことがルールだとおっしゃいました」
「うちのチームの?」
「はい」
「ふぅん、初耳」って言った以外、特になんの反応もなく椅子に座ってデスクに足を乗せた。
「隼人院長、ダメです。デスクは足を乗せるところじゃありません。おろします」
「おい、なんだよ?」の声を尻目に、酷く重い足を一気におろした。
「非常識にも程がありますよ」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔を初めて見た。
「今まで良かったかもしれないですが、この瞬間から乗せたらダメです」
「二代目矢神か? こんなアニテク、理事長に頼んだ覚えはないぞ」
ぽかんと見ていた朝輝先生が私に駆け寄って来た。
「ねぇ、ちょっとなにしてんの、こっちへおいでって」
歯を食い縛って前歯の間から声を出している。
背中で椅子に座っているのかと思うぐらい深く腰かけていた隼人院長が、顔面にタバコの煙でも吹きかけられたような煙たい顔で、頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせてくる。
「なんだよ、まだ用があんのかよ?」
面倒くさそうな顔と声。
「どうして、私が隼人院長のチームに異動なんですか?」
「くじ引きだ」
「くじ引きだったんですか」
「しかも貧乏くじを引いた」
「私がですか?」
「ふざけんな、引いたのは俺のほうだ」
見上げる顔は蛍光灯に照らされて眩しそう。