エリート精鋭獣医師チームに放り込まれたあかちゃん
「阿加ちゃん、コピーは僕がしてくるよ」
「いいですったら、まさか獣医に雑用をさせるわけにはいきません」
 調剤をしながら俊介先生の手からプリントをそっと抜いた。

「俊介先生は診療で呼ばれますよ、待機しててください。終わったら行きます」
 
 奥から二番目の診察室が開いて、看護師が俊介先生を捕まえて病状を説明している。

「俊介先生、早速ですよ、行ってらっしゃい」
「終わったらすぐおいで」
「はい」
 見送ると安心したように診察室に入って行った。

「阿加さん、どうして人見先生を下の名前で呼ぶの? どんな関係?」

 受付に戻った看護師と入れ替えに見慣れない看護師がにじり寄って来た。

 気安いとか馴れなれしいとかギャンギャン言うだけ言ってくるから、ルールだって説明したら首を傾げている。

 どこのチームの看護師なんだろう。

 クリーレンは大きいしニ十四時間体制で診療しているから、スタッフの数も膨大で全く面識がない人もいる。

 しっかりと説明しておかないと、どんな噂を立てられるか気が気じゃない。
 俊介先生にも迷惑かけちゃう。

 処方箋が終わり、次は大量のコピー作業。
 大量の紙って意外と重くて馬鹿に出来ない。

 とは言っても、またすぐプリントが減るから余裕をもってコピーしておこう。
 
「貧乏くじ、なにやってんだ?」
「あ、隼人院長。プリントをコピーしてます」

「なんで受付が雑用をやらない? 断れよ」
「受付のスタッフや看護師に仕事を増やしたら気の毒です」
「お人好し、調剤も頼まれてんじゃんかよ」
「いつも好きで私がしてますからいいんです」
「コピー終わりだろ? 持つからどけよ」
「とんでもない! 隼人院長にそんなことさせられません」

「精鋭揃いの俺のチームの看護師が雑用なんてやっていたら、俺の面目丸つぶれだ」
「二人きりで誰も見ていません」
「うるせぇな、ああ言えばこう言う。持つのが好きなんだよ、これなら文句ねぇだろ。そこどけ、邪魔だ」

 腕の血管が盛り上がるごつい手で、あっという間に持ち上げて「行くぞ、来い」って、ぶっきらぼうに呟いて歩き出すから追いかける。

「人見に付くって言っただろ、人見にくっ付いてろよ」
「はい」
 廊下をなにを話すでもなく黙々と沈黙のまま歩いて、多数のスタッフが激しく動き回るケアステの近くまで来た。

「あああ、(おも)っ、しんどっ、疲れたからここまで。あとはひとりで持ってけんだろ」

 どすんと急に重たくなって、腰が廊下に深く沈むかと思った。重いっ。

「ばら撒くなよ、じゃあな」
「ありがとっ......ござっ......ま......す、ん、うっ」
 涼しい声は一度も振り向かないでケアステに入って行っちゃった。

「お、どうしたどうした、貸してみろ」
「あ、敬太先生」
「さっき抱き締めたからお返しな、優しいだろ?」
 スポーツ万能の敬太先生なら、こんなの朝飯前、筋トレみたいでしょ。

 敬太先生と歩いていると院内のスタッフから嫉妬の目で見られているのは気のせい?
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