自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
くしゃくしゃの髪の毛を、朝輝先生のしなやかな指が手櫛で整えてくれた。
「阿加ちゃんの髪の毛触り心地良いな、指にからみついてくる。滑らかで触れてると眠気を誘う」
大きくて温かな手。とても安心する。お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな。
撫でられている私も凄く気持ちいい。
「もしキスしたら、こんなに可愛い顔で見上げてくるのだろうか。気持ち良いの?」
「こらっ、研修医、私の妹をからかわないでちょうだい。さっさと職場に戻りなさい」
「はいはいはいはい」
「返事は一回!」
葉夏先生、休憩中の寝起きさえも綺麗だったけれどメイク直したら完璧。
「あのやんちゃ坊主には困ったもんね。手が焼けるほど可愛いちゃっ可愛いって、なにこのジレンマ」
「みんな、阿加ちゃんが仕事しやすいようにリラックスさせてくれてるんだよ」
「この俊介だけはクリーレンの良心なのよ。あなたにあずければ阿加ちゃんの貞操守られて安心なんだからね、ちゃんと見張っててよ、分かった?」
「僕は安全パイなのか。んんん、そっか、お目付け役か」
「なんで俊介はいちいち考え込むのかな、昔からそう」
「感覚派の葉夏と一緒にしないでくれる?」
クスッて笑って葉夏先生を見つめる目が優しいな。
「なにがおかしいのよ、いい? 手を出さないでよ」
「手は出さない、口は出すよ」
「優しくて中性的で男を感じさせないあなたでも、やっぱり本能は男の性なのね」
「露骨に動かないだけで僕だって男だよ。現に、この子こうして僕を選んだよ?」
「なに言ってんの、あなたは阿加ちゃんにとって優しくて頼れるお兄さん枠なのよ?」
「葉夏はさしずめ、小うるさいお姉さんってところか」
「俊介先生と葉夏先生? ずっとずっとなんの話ですか?」
「阿加ちゃんは気にしなくていいのよ」
『正真正銘のお目付け役は私だけなのか。自分しか信じたらダメ、周りの男は狼だらけ』って葉夏先生、独り言みたい。
「院長も信じられるわ、あの人だけは安全パイ」
「ん? なぜなの?」
「なんとなく女の第六感」
「なんだ、根拠がないんだね」
「黙れ理論派め、感覚派の私の第六感も捨てたもんじゃないわよ」
隼人院長、素っ気なくて女の人に興味なさそうだもんね。
「矢神先生、担当の子の飼い主さんからのお電話をPHSに転送します」
「了解、ありがとう」
俊介先生と私に目で合図をすると、葉夏先生はシューズをキュッキュッと鳴らしながら廊下に出て行った。
俊介先生は休む間もなく、また診療に呼ばれて診察室に入った。
「あなた本当に自分がこの仕事向いてると思ってる?」
覗き込むように言われたので、顔を上げたら非枝チームの看護師の徳縄先輩。
「お疲れ様です」
「疲れてないけど」
二年上の徳縄先輩からは毎回こんな返しをされていますって感じ。
「それなら良かったです、今日も激混みですね」
言葉に微笑みの余韻を浮かべて、なんとか当たり障りのない雑談を試みてみる。
「さっきのなにあれ。あんなクレーム対応で大丈夫なの?」
徳縄先輩は嫌味ったらしく言うけれど、我慢強く耐えて飼い主の言い分を聞いたのは自分でも頑張ったと思う。
「あのクレームじじいの問診、誰もやりたがらないのよ、あなたは文句言わないから押し付けたってわけ」
入職した当初から、こうして嫌なことはすべて私に押し付けてきた。
それくらい鈍感な私でも勘付いている。
「みんなが嫌がる仕事を引き受けられて良かったです」
「は? 嫌じゃないの?」
「そのおかげでクレーム対応の場数が踏めました。嫌どころか逆に徳縄先輩に感謝しています」
「あんたが逆らわないから、みんなあんたのこと、なめてかかってるって分かってる?」
別に結果オーライだったし。
「阿加ちゃんの髪の毛触り心地良いな、指にからみついてくる。滑らかで触れてると眠気を誘う」
大きくて温かな手。とても安心する。お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな。
撫でられている私も凄く気持ちいい。
「もしキスしたら、こんなに可愛い顔で見上げてくるのだろうか。気持ち良いの?」
「こらっ、研修医、私の妹をからかわないでちょうだい。さっさと職場に戻りなさい」
「はいはいはいはい」
「返事は一回!」
葉夏先生、休憩中の寝起きさえも綺麗だったけれどメイク直したら完璧。
「あのやんちゃ坊主には困ったもんね。手が焼けるほど可愛いちゃっ可愛いって、なにこのジレンマ」
「みんな、阿加ちゃんが仕事しやすいようにリラックスさせてくれてるんだよ」
「この俊介だけはクリーレンの良心なのよ。あなたにあずければ阿加ちゃんの貞操守られて安心なんだからね、ちゃんと見張っててよ、分かった?」
「僕は安全パイなのか。んんん、そっか、お目付け役か」
「なんで俊介はいちいち考え込むのかな、昔からそう」
「感覚派の葉夏と一緒にしないでくれる?」
クスッて笑って葉夏先生を見つめる目が優しいな。
「なにがおかしいのよ、いい? 手を出さないでよ」
「手は出さない、口は出すよ」
「優しくて中性的で男を感じさせないあなたでも、やっぱり本能は男の性なのね」
「露骨に動かないだけで僕だって男だよ。現に、この子こうして僕を選んだよ?」
「なに言ってんの、あなたは阿加ちゃんにとって優しくて頼れるお兄さん枠なのよ?」
「葉夏はさしずめ、小うるさいお姉さんってところか」
「俊介先生と葉夏先生? ずっとずっとなんの話ですか?」
「阿加ちゃんは気にしなくていいのよ」
『正真正銘のお目付け役は私だけなのか。自分しか信じたらダメ、周りの男は狼だらけ』って葉夏先生、独り言みたい。
「院長も信じられるわ、あの人だけは安全パイ」
「ん? なぜなの?」
「なんとなく女の第六感」
「なんだ、根拠がないんだね」
「黙れ理論派め、感覚派の私の第六感も捨てたもんじゃないわよ」
隼人院長、素っ気なくて女の人に興味なさそうだもんね。
「矢神先生、担当の子の飼い主さんからのお電話をPHSに転送します」
「了解、ありがとう」
俊介先生と私に目で合図をすると、葉夏先生はシューズをキュッキュッと鳴らしながら廊下に出て行った。
俊介先生は休む間もなく、また診療に呼ばれて診察室に入った。
「あなた本当に自分がこの仕事向いてると思ってる?」
覗き込むように言われたので、顔を上げたら非枝チームの看護師の徳縄先輩。
「お疲れ様です」
「疲れてないけど」
二年上の徳縄先輩からは毎回こんな返しをされていますって感じ。
「それなら良かったです、今日も激混みですね」
言葉に微笑みの余韻を浮かべて、なんとか当たり障りのない雑談を試みてみる。
「さっきのなにあれ。あんなクレーム対応で大丈夫なの?」
徳縄先輩は嫌味ったらしく言うけれど、我慢強く耐えて飼い主の言い分を聞いたのは自分でも頑張ったと思う。
「あのクレームじじいの問診、誰もやりたがらないのよ、あなたは文句言わないから押し付けたってわけ」
入職した当初から、こうして嫌なことはすべて私に押し付けてきた。
それくらい鈍感な私でも勘付いている。
「みんなが嫌がる仕事を引き受けられて良かったです」
「は? 嫌じゃないの?」
「そのおかげでクレーム対応の場数が踏めました。嫌どころか逆に徳縄先輩に感謝しています」
「あんたが逆らわないから、みんなあんたのこと、なめてかかってるって分かってる?」
別に結果オーライだったし。