自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「院長は今、第三っす」
「ありがとう。今朝、手術した子の様子を回復室で見て来たから院長に報告しようと思ってね」
今朝は何件救急手術が入ったのかな。
「あら、見かけない顔ね」って、目の前の看護師さんの関心が私に向いたら「こちら阿加ちゃんっす」って朝輝先生の元気な声につられて、はきはき自己紹介が出来たと思う。
「大樋 貴美子です、よろしくお願いします」
チームで唯一の既婚者で、時間の融通が利く限り夜勤も入っているそう。
クリーレンの夜勤は二交代制だから夜勤時間が長い。
でも、休みをまとめて取れるし生活リズムが乱れにくいから既婚者の大樋さんにとってはメリットだそう。
女性ホルモンの乱れや自律神経の乱れに悩まされることもあるけれど、大樋さんの体は慣れたのかな。
「穏やかで優しい大樋さんは、うちのチームのお母さんだよ」
「俊介先生みたいですね」
「人見先生も温厚だよね。さしずめ頼れるお兄さん、ピッタリでしょ?」
俊介先生は本当にとっても優しいお兄さん。
「ところで阿加ちゃんは急に異動が決まったのかしら? それとも二週間後に来るはずだった」と、大樋さんが言いかけたら「この子がそうっす。人手不足で異動が前倒しになりました」って、朝輝先生が経緯を説明してくれた。
「手術に入っちゃうと浦島太郎状態で、なにが起こったのかさっぱり分からないわ」
大樋さんは笑いながら『また人員不足なの?』って。マイナスなことなのに大したことでもなさそうに笑っちゃってるって不思議。
短期退職者の多い業界だとは分かっていたけれど、ある日突然来なくなるとか非常識な辞め方をする人が意外と多い。
隼人院長チームも例外ではなく、つらくてきつくて来なくなるみたい。
とにかく人手が足りなくて来てくれて助かる良かったと、大樋さんに凄く感謝されてしまい期待値を上げられたのがつらい。
「うちのチームの精鋭メンバーが勢ぞろいだよ」
隼人院長だけが怖い。敬太先生は口は酷く悪いし調子いいけれど根は優しいと思う。
「どんなにしんどくても院長チームについてきたら、どこのチームや病院に行っても通用する看護師に育てるから頑張ってついてきて」
「ほら聞いた? まさに大樋さんはお母さんでしょ」
自分のことみたいに嬉しそうな笑顔の朝輝先生につられて、私も嬉しくなった。
「異動ってメンタル消耗する。業務手順だったり物品の置き場所の違いから、いちから人間関係を作らなきゃだしね」
朝輝先生は、都内の医療センターから研修医としてクリーレンに入職した先生。
異動とは違うけれど、新しい環境に入る境遇は私と似ている。
「一般臨床は、ある程度出来るようになったから、今一度スキルアップをしたくて来たけど、やり方も物品も人もまったく違うからクリーレンでは新人扱い」
「波島先生はさらりと言うけれどね」
そう前置きをした大樋さんが含み笑いを交えながら、話を続ける。
「この病院は、スキルアップのために来たくても簡単には入職出来ないの。優秀な評価を受けたスペシャリストだけがヘッドハンティングされるのよ」
「そう、僕もそのエリートの中のひとりなんだよ、阿加ちゃん」
無造作な黒髪の奥に見える優しい奥二重の瞳が楽しそうに笑いかけてくる。
「異動するたびに新人。ポジティブに捉えるなら、新しいことを覚えたり実践出来たりで成長するチャンスよ」
「その通りっす、やるだけ。だから阿加ちゃんも頑張ろうね」
「波島先生も今おっしゃったけど、物品の置き場所ね。まずはどこになにがあるかを覚えて」
「頼むね、僕らも助かる」
「あれもこれも詰め込めようとしない。まずはひとつ目を覚えましょうね」
不安に押しつぶされそうになりながらも、先生たちや大樋さんのおかげで私の隼人院長チームが始まった。
「ありがとう。今朝、手術した子の様子を回復室で見て来たから院長に報告しようと思ってね」
今朝は何件救急手術が入ったのかな。
「あら、見かけない顔ね」って、目の前の看護師さんの関心が私に向いたら「こちら阿加ちゃんっす」って朝輝先生の元気な声につられて、はきはき自己紹介が出来たと思う。
「大樋 貴美子です、よろしくお願いします」
チームで唯一の既婚者で、時間の融通が利く限り夜勤も入っているそう。
クリーレンの夜勤は二交代制だから夜勤時間が長い。
でも、休みをまとめて取れるし生活リズムが乱れにくいから既婚者の大樋さんにとってはメリットだそう。
女性ホルモンの乱れや自律神経の乱れに悩まされることもあるけれど、大樋さんの体は慣れたのかな。
「穏やかで優しい大樋さんは、うちのチームのお母さんだよ」
「俊介先生みたいですね」
「人見先生も温厚だよね。さしずめ頼れるお兄さん、ピッタリでしょ?」
俊介先生は本当にとっても優しいお兄さん。
「ところで阿加ちゃんは急に異動が決まったのかしら? それとも二週間後に来るはずだった」と、大樋さんが言いかけたら「この子がそうっす。人手不足で異動が前倒しになりました」って、朝輝先生が経緯を説明してくれた。
「手術に入っちゃうと浦島太郎状態で、なにが起こったのかさっぱり分からないわ」
大樋さんは笑いながら『また人員不足なの?』って。マイナスなことなのに大したことでもなさそうに笑っちゃってるって不思議。
短期退職者の多い業界だとは分かっていたけれど、ある日突然来なくなるとか非常識な辞め方をする人が意外と多い。
隼人院長チームも例外ではなく、つらくてきつくて来なくなるみたい。
とにかく人手が足りなくて来てくれて助かる良かったと、大樋さんに凄く感謝されてしまい期待値を上げられたのがつらい。
「うちのチームの精鋭メンバーが勢ぞろいだよ」
隼人院長だけが怖い。敬太先生は口は酷く悪いし調子いいけれど根は優しいと思う。
「どんなにしんどくても院長チームについてきたら、どこのチームや病院に行っても通用する看護師に育てるから頑張ってついてきて」
「ほら聞いた? まさに大樋さんはお母さんでしょ」
自分のことみたいに嬉しそうな笑顔の朝輝先生につられて、私も嬉しくなった。
「異動ってメンタル消耗する。業務手順だったり物品の置き場所の違いから、いちから人間関係を作らなきゃだしね」
朝輝先生は、都内の医療センターから研修医としてクリーレンに入職した先生。
異動とは違うけれど、新しい環境に入る境遇は私と似ている。
「一般臨床は、ある程度出来るようになったから、今一度スキルアップをしたくて来たけど、やり方も物品も人もまったく違うからクリーレンでは新人扱い」
「波島先生はさらりと言うけれどね」
そう前置きをした大樋さんが含み笑いを交えながら、話を続ける。
「この病院は、スキルアップのために来たくても簡単には入職出来ないの。優秀な評価を受けたスペシャリストだけがヘッドハンティングされるのよ」
「そう、僕もそのエリートの中のひとりなんだよ、阿加ちゃん」
無造作な黒髪の奥に見える優しい奥二重の瞳が楽しそうに笑いかけてくる。
「異動するたびに新人。ポジティブに捉えるなら、新しいことを覚えたり実践出来たりで成長するチャンスよ」
「その通りっす、やるだけ。だから阿加ちゃんも頑張ろうね」
「波島先生も今おっしゃったけど、物品の置き場所ね。まずはどこになにがあるかを覚えて」
「頼むね、僕らも助かる」
「あれもこれも詰め込めようとしない。まずはひとつ目を覚えましょうね」
不安に押しつぶされそうになりながらも、先生たちや大樋さんのおかげで私の隼人院長チームが始まった。