エリート精鋭獣医師チームに放り込まれたあかちゃん
 問診と診療が終わり、近くに居た葉夏先生に状況をたずねた。

「なんとびっくり、驚かないでよ」
 きれいな目を見開いて、ワクワクした顔で勿体ぶる葉夏先生。
「聞きたい?」
 ドSな葉夏先生に「教えてください」と、せっついた。

「院長がね、あの情け容赦ないシビアな院長がよ? 患者さんの気持ちに寄り添い共感的態度をとったのよ」

「遠慮や情による手加減もない、とっつきにくい隼人院長がですか?」
 いいのかな、二人とも言いたい放題言ってしまってない?

「激怒してる飼い主から『そうなんです、具合悪い子を見ているのがつらいんです』って言葉を見事に引き出したのよ?」

 飼い主は気が済んだみたいで人が変わったようにおとなしくなって帰って行ったって。

「無遠慮で情なしのとっつきにくい奴がどうしたって?」
 振り返れば、そびえ立つような長身の隼人院長が真後ろに立っていた。

「お、お疲れ様です。すみません、違うんです。小耳にはさんだだけです」

「院長、さすがですね。飼い主をおとなしく帰らせるなんて、とてもじゃないですが私たちには出来ません、お見事でした。ねっ、阿加ちゃん」
 
 急にふられて小刻みに頷くのが精一杯。葉夏先生ったら口が上手。私あんなこととっさに出てこない。

「さてと私は野暮用があるので失礼します」
「あっ、あっ、葉夏先生」
 私を置いてフットワーク軽く行っちゃった。

「なんだよ、その目は」
「いいえ、別に」
 この顔で、あの飼い主をおとなしくさせたんだ。きっつい目付き。

 隼人院長をけんか腰の口のきき方にしているのは私の方なんだね。

「すみませんでした」
 なんにも出来ないのに言いたい放題言っている私のことを軽蔑したでしょう。
 その場を離れた。

 ***
 
 翌朝のミーティングで隼人院長がヤブ医者と言われた件が話題に上った。

 隼人院長は、ヤブ医者と言われたということは信頼関係が崩れていると判断して、他の病院を紹介して受診を促すのもひとつの方法だとおっしゃっていた。
 
 次また、あの飼い主がなにかトラブったら隼人院長のことだから他に行けとバッサリ切るんだろうなと思った。

 動物の命を救うために経験や技術を駆使して、今出来うる限りの努力をして、全力を尽くして最善策を考えて治療を施しているのにヤブ医者なんて言われたら獣医だって人間だもん、嫌になるよ。

 プライド云々じゃなくて、ただただ哀しい言われ方。
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