自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 どっちみち私も責められて、かなりの問題になるところだったから、本当に生きた心地がしなかった。
 見つかって良かった。

 医局に戻るとみんなが迎えてくれて、口々に労いの言葉をかけてくれた。

「あらあら阿加ちゃん、よく頑張ったわね、お姉ちゃんのところにおいで」
 葉夏先生がハグしてくれた。優しいお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。

「立ちっぱなしで心身共に疲れたでしょう。少しソファーに横になったら?」  
 葉夏先生がすすめてくれた。

「みんな疲れているのに私だけというのは......」

「つかの間の休息、横になっちゃおっと」
 敬太先生がお茶目に、もうひとつのソファーに寝そべる。 

 一番年長の敬太先生。自分が率先して寝そべれば私も寝転びやすいと気を遣ってくれたんだ。

 目はチカチカ、頭の中は興奮でギンギン、足は火照ってじんじん、首肩腰はガチガチ。
 
 私はサポートしかしていないのに動けないほど疲れた。一日何件も手術をしている先生たちはどれだけメンタル体力オバケなの?

「休憩したらコーヒーを淹れるよ、今日言われたことを言ってごらん」
「俊介、私が淹れるから阿加ちゃんの話を聞いてあげて」
「葉夏、ありがとう」
「ありがとうございます」
 お二人も疲れているのに優しく労ってくれる。 

 俊介先生が話を聞いてくれている向かいでは、敬太先生がふざけたつもりでしょうに本当に寝てしまった。 

 非枝先生と徳縄先輩に目をつけられ、仕事の要領の悪さを注意されたことやガーゼの話とか、術中の地獄の出来事を一部始終聞いてもらった。

「言いたいことは全部吐き出せた?」
「おかげさまで。ありがとうございます」

「それなら良かった。鬱憤が積もっていくと阿加ちゃんだって聖人君子じゃないもんね、二人への不信感がたまるよね」   

「疲れました」
「お互い人間だから、自分を抑えて相手のことを考えるのは難しいよね」 

「俊介先生もですか?」
「僕も人間だよ。簡単じゃないときもある、歩み寄りが必要だよ」

 穏やかで思いやりあふれる俊介先生でも折り合いをつけて他人と接しているってことか。

「嫌味やいじめは跳ね返すより、気にしないがいちばん。すべてまともに受け止めてたら壊れちゃう。ねっ?」

 ニコッと微笑んでくれる。顔も良い性格も良い。こんなに良い人がいるんだってくらい良い人。
 俊介先生に聞いてもらえなかったらストレスでやられていたと思う。

「少しずつメンタルが鍛えられることによって、人間関係も仕事も人生も自信がもてるようになるよ」

「なに、メンタルの話? 少しのことでいつまでも思い悩んでいることが無意味に思えるようになるわよ」

 葉夏先生が三つのカップを置くと、私の隣に座った。
 切り替えが上手でサバサバした葉夏先生らしいアドバイスは説得力が増す。
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