自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「打たれ強いメンタルは生まれつきの資質ではないことの方が多いよ。葉夏みたいに産声をあげた瞬間から強靭な人も中にはいるけどね」

「阿加ちゃんに私の最強メンタルを半分あげたいわ」
 半分以上あげても大丈夫だよって、くすっと笑った俊介先生は続けて「場数を踏めばメンタルは鍛えられるよ」って教えてくれた。

「そうして手に入れた折れないメンタルは、どんな厳しい世界でも生き抜いていく自信を与えてくれるわよ」

「阿加ちゃんは今からがはじめの一歩だよ、焦らなくていいんだよ」

「ねぇ阿加ちゃん、俊介ってこんなに良い奴なのに一度も彼女が出来たことないのよ、信じられないでしょ」

「いいよ、僕の話は」
「長身、イケメン、エリート、優しい、賢い、金持ち、高学歴、高収入。欠点がまったくないのよ」
 葉夏先生が本気で考えている。

「どうしても、ひとつ欠点を挙げなきゃいけないっていうのなら、そうねシャイなところね。それって全然欠点じゃないわね」
  
「葉夏、いい加減にして。今は阿加ちゃんの話だよ、僕のことはいいの」
 たしなめ方まで、ふんわりやんわり優しいんだ。
 俊介先生って、隼人院長や敬太先生みたいにガミガミ烈火の如く怒ったことあるのかな?

「足音しない?」
「うん、するね。あの足音は」

「隼人院長ですよ。私、分かります」
「あら阿加ちゃん、いつも院長の飼い犬みたいよね」
 葉夏先生は気軽にケラケラ笑っている。私は笑えないことをしてしまったから冷や汗が出てくる。

「またストレスの元が来ます。もうガーゼの話が耳に入ったのですかね。これから公開説教ですよ」
 肩が凝りそうなほど背筋がぴんと伸びる。

「そんなに構えないでリラックスして」
 まるで白衣の天使みたいな手を握らんばかりの俊介先生の微笑みに助けられる。

「お、お疲れ様です」
 ソファーのバネが壊れて弾けたように立ち上がり挨拶をした。

「お疲れ、どうしたビビってんなよ、座れよ貧乏くじ」
 長─い長い足がゆっくりと向かい側のソファーに座る。
 ビビってんなよってことは、やっぱりもう耳に入っているの?

「救急の手術に駆り出されてどうだったんだ?」
「ええ、まぁ、そこそこに」

 どうも俊介先生のときみたいに饒舌にスッキリするようには言葉が出て来ない。

「曖昧な表現は避けろ、説明は明快に具体的に言え。それじゃあ報告になっていない、ふざけんな」

「まぁまぁ、院長お手柔らかに。阿加ちゃん萎縮してますよ、怖がらせてどうするんですか」

 葉夏先生が恐怖の隼人院長から私を庇ってくれるけれど、確かに隼人院長の言う通り。 

 興味本位で質問されているわけじゃなくて、仕事として真剣に質問されている。

 俊介先生に話した非枝先生と徳縄先輩から受けた数々のイビリのやり取りは話さないで、他のことは一部始終を理路整然と伝えた。

「次からは気を付けろ。軽率な奴は貧乏くじだけではないがな」
 それだけ言うと隼人院長は医局を出て行った。

「院長は気難しい人だけれど評価は公平だから心強いよ」
「阿加ちゃんラッキーね。またひとつ強靭なメンタルに近付いたわよ、ファイト!」

 隼人院長チームは、全員が頑張ろうと思わせてくれる人ばかり。
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