自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「もう他の者に頼めよ」
 隼人院長は片足を床につけて、ひざまずく格好になり言い方はため息交じりで匙を投げちゃいそう。

「いらっしゃらないんです、どなたも」
「いたらそいつに頼むのか?」
「今、頼めって」

 私の鼻先まで顔を寄せてきた。

「俺を誰だと思ってんだ、内科の花形循環器って分かっているよな。だから、その手を離せ、最後までやらせろ」
 痛い、この手を離したら、もっと痛いことをされる。

「循環器内科の俺は、多能で手先が器用だから安心して体をあずけろ」
 じりじりにじり寄る怖さに耐えられない。

「痛いっ、もう無理です」
「潤いが足りないのか」
「もう嫌です、入れたくない」
「ここまできて、なに言ってんだ」
「痛い」
「入れたら世界が変わる、人生バラ色だ」
「いらない、いいです」
 力なく隼人院長の腕を握った。

「それだったら上から。私の背後から」
「上って俺がか?」
「私の上からです」
「覆いかぶさるってことか? どんな体勢だよ、やりづれぇよ」
  
「やっぱり、こっちのほうがしっくりくる」って、私と向かい合った。

「おい泣くなよ、震えてんのか。肩の力を抜いてリラックスしろよ」

「痛くて涙が出てきます、ゆっくりお願いします」
「任せろ。だからいうことを聞け、力を抜け」
 だんだんと抵抗することを諦めちゃいそう。

「ようやく無駄な抵抗をやめたか、おとなしくしてろよ」
「ゆっくりお願いします」
「分かった。しかし、姿かたち色々あんだな」
 隼人院長が興味深げにまじまじと見つめている。

「隼人院長、初めて見たんですか? その歳まで見たことないんですか?」
「三十二まで見たことなくて悪かったな、縁がなかったんだよ」
 彼女とかのを見たことないのかな。

「お前のって、柔らかくて凄く吸いついてくるのな」
「強く触れたら破れちゃいます」
「だから、さっきから優しくしてんだろ」
「あまりしげしげ見てると乾いてしまいます」
「自分にないから珍しいんだよ」

「隼人院長、こすりすぎたらベタベタして乾いちゃいます」

「丁寧に扱ってる。乾いてたら痛いよな、舐めて滑りをよくさせらねぇし」
「ダメです、それはダメ」

「無理やり入れたら、お前の中が傷付く。そんな強引なことするわけねぇだろ」
 手に汗握って、体がしっとり汗ばむ。

「ふぅ。らしくねぇな、緊張してきた」
 肩で大きく息を吸うから、私まで緊張する。
< 42 / 112 >

この作品をシェア

pagetop