自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「阿加ちゃんも院長から辛辣な言葉を浴びせられてたもんね、僕らお互いよく乗り越えたよね」 

 隼人院長チームに来た当初、朝輝先生が私の気持が分かるって共感してくれて励ましてくれた。 

 あれで頑張ろうって思えた。なにがなんでも辞めない、乗り越えるんだって。
 
「隼人院長怖かったです。私にミスるなって凄いプレッシャーかけてくるから胃に穴が開くかと思いました」
 
「それね、実は僕にもプレッシャーになってた。院長ってドSだよね」  
 
「仮にミスったとしても院長がいてくれるから安心よね、人見先生」
「僕らは怒られないから、院長との手術は安心だけですよね」  

「そりゃあ人見先生もエリートですもの、怒られませんわよ」
「いやいや、大樋さんお上手ですね。まだまだです」
 謙遜する姿勢が控えめな俊介先生らしいな。

「研修医に執刀医をさせるのは俺のやり方だって、さっき隼人院長がおっしゃっていました。サポートに回るのが役目って」

「いかに執刀医が気持ち良く手術が出来るようにすることがいちばんかって、院長は常日頃から考えていらっしゃる。まさに院長は第一助手の鑑なのよ」
 
「だから僕はエリートなんかじゃない。院長のサポートのおかげで、僕の手術は成立しているんだ」って俊介先生が珍しく熱弁する。

「ただ、この第一助手は誰でも務まるわけではないのよ。理想的には術者と同等以上の実力者で、手術に精通している必要があるわ。じゃないと適切なサポートが出来ないでしょ」  

 教師と生徒みたいな感じで手術を進めていく感じかな。

「聞いて、阿加ちゃん。だから名実共にトップの院長なのよ。指揮官でもあり縁の下の力持ちでもあるの」って大樋さんべた褒め。

「いくらスーパーエースが執刀してても、第一助手が今ひとつの場合は、なかなか思った通りには手術が進まないから執刀医がイラつくんだよ」

 病院の手術室では見慣れた光景って、俊介先生が言っていた。いつかの何処ぞの先生が思い浮かぶ。

 あ、違うか。あのとき非枝先生は執刀医だったか。執刀医なのにイラついて当たり散らしていたんだった。

「自分たちが気持ち良く働けなくて、どうして患者に満足を与えることが出来るの? 院長の想いはそれだよ」

「私も直接介助と器械出しで足手まといにならないように気を付けないと」
「阿加ちゃん、院長に褒められた記憶を残しておいた方が良いよ」
「俊介先生の言う通りですね、そうします」

「いいね、阿加ちゃん。ただでさえ可愛いのに笑ったら異常に可愛いよね。恋に落ちるから僕には笑いかけないでくれる?」

 相変わらずの朝輝節。一気に医局が明るくなる。

「そうだ、お疲れのところ申し訳ございませんが、人見先生にお願いがあるんです」

 大樋さんが思い出したように長傘を持って来て広げた。

 白地に入る模様は踊るような音符、周りは鍵盤模様が共に描かれていて、露先にはフリルがついた個性的な傘で可愛く目立つ。

 骨と布地を止めている糸が切れちゃったらしくて、針と糸が商売道具なだけあって俊介先生は器用に修理した。
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