自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
第五章 スカッとした
 朝のミーティング終了。

「俊介先生、おととい初めて隼人院長と夜勤だったんです」
「どうだった? 院長となら緊張しちゃったかな」

「おとといは割と平和だったので、何気なく隼人院長に『今夜は落ち着いてますね』って言ったんです」
 本当に私のときは急変や急患が重なるから。

「そしたら『黙ってろ、よけいなこと言うんじゃねぇよ。それ禁句だって非枝んとこで教わんなかったのかよ』って叱られてしまいました」
 
 怖かった、ますます苦手意識が強くなってしまった。そんなに怒らなくても。
 言い方ってあると思う。

「落ち着いてますねは急変や救急、緊入を呼んじゃう魔法の言葉なんだよ。院長のことは気にしないこと、次から気を付ければ良い」

「ありがとうございます、魔法の言葉って知りませんでした。以後、気を付けます」

 だから私のときは緊急手術が立て込んだり、立て続けに救急患者が来たりするのかな。
 ジンクスは信じないけれど円滑に仕事を進めるために、もう禁句にしよう。

「非枝チームでは急変や重症者ばかり当たってつらかったとき、みんなから『持ってるね』って笑われていました」 

「阿加ちゃんは引きが強いんだね」
 クックッと声を漏らして笑っている。
「俊介先生まで笑わないでくださいよ」
「ごめんごめん。その患者たちは阿加ちゃんに看てほしかったんだね」

 ほわんって力が抜けて見惚れそうになる。優しい俊介先生の発想って凄い。

「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
 どうして俊介先生ってこんなに心が温かいんだろう。

「凄く気持ちが軽くなったし頑張ろうって思い直しました。しょっちゅうでしたので疫病神みたいで、気が重かったんです」

「患者にとって阿加ちゃんは、まさしく白衣の天使なんだよ。だから阿加ちゃんが夜勤のときに来たがるんだね、分かるよ」

 白衣の天使だって。分かっているのに上手だなぁって嬉しい。

「それで昨夜はどうだったの? ジンクスは発揮した? 院長と阿加ちゃんのペアは荒れるジンクスが出来たりして」
 イタズラっ子みたいに笑う俊介先生。

「勘弁してくださいよ、嫌です」
 いつも優しいからきつい冗談も許せちゃう。
 
「魔法の言葉の直後に交通事故での脾破裂が回されて来て、緊急に準備して脾摘出術でした」
「それは現場は大変だったね」

「出血も多かったですが緊張の手術は無事終了しました」
「執刀医は院長でしょ?」
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