自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「はい。バタバタ大忙しの中、どこからともなく重症患者の匂いを嗅ぎつけて当直室の奥から隼人院長が出て来ました」

 私も頭の中が真っ白で棒立ちになっていた時代より、場数を踏んで少しは成長したと思う。

「手術中、ほとんど出血させずにサクサク切って血管を縛って血行を止めるし、迷いなく一発でルートキープを決めたり、ほんと凄かったです」

「おとなしい阿加ちゃんが前のめりになって話すなんて珍しいね。院長の技術を前にしたら興奮するよね。分かる、僕もなるよ」
 
 凄すぎて共感してほしくてたまらなかった。俊介先生なら一緒に凄い凄いって言ってくれるから。

「さてと、その交通事故の子を診てくる。先に外来に行っていて」
「はい、分かりました」
「僕と阿加ちゃんは荒れるかな、持ってるペアかな」
「俊介先生ったら、魔法の言葉は禁句ですよ」
「了解」
 和やかに一日が始まった。

「阿加ちゃん、ちょっといいかな」
 診察室についたら大樋さんに呼び止められた。

「人見先生は話しやすい?」
「優しく聞いてくれて共感もしてくださいますし怖くないです」
 大樋さんが「そうね、分かるわ」って言ってくれた。

「私は話しやすい?」
「はい! 俊介先生みたいです。今も共感してくださいました。嬉しいです」 

「頑張ってる阿加ちゃんが、こうしたらもっと良くなるのにって思うことがあるの。聞いてほしいな」
「お願いします、お話してください」 
 促すと「聞いてね」って前置きをして話し始めてくれた。

「獣医も看護師も立場は同じはず。違うのは役割」
 獣医療に携わっている点では同じ。確かに役割は違う。

「患者さんに近い距離の役割を担い、誰よりもよく患者さんを分かっているのは看護師である私たち」   

「先生たちよりも患者と一緒に居る時間が長いですし、私たちの方がずっと患者のことを分かっています」
 私には自負がある。

「ねっ、私も同感。それなら、あくまで対等に先生たちに思ったことはぶつけてみたらどうかな?」
 うつむいて白衣の裾をいじってしまう。

「阿加ちゃんには、まだ先生たちと対等に向き合う自信がないかな?」
「私は足を引っ張る足手まといです」

「そんなことないわよ。私も先生たちも普段から阿加ちゃんのことを見てるのよ」  
 バカバカしいという感じで笑い飛ばしてくれる。

「怖いのね、出来てるのに。それなら先生たちと良い関係が築ける方法を教えようか」
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