自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
第六章 目覚めてみれば
 おい
 くじ
 びんぼ
 く
 んんんん、なに、肩を軽く突かれた?
 まだなにか、ぼそぼそと声みたいな音がする。

「う......るさ......」
 音とは反対方向に向くと眩しい光を感じて目の辺りが痒い。

「おい、貧乏くじ起きろ」
「ゃぁだ......まだ、だぃじょぅ......」
「起きろ」
「っるさいって......」
 あっちに行けって!
 右足のつま先に鈍く重い感触があって、ウッって漏れるような低い音がした。

「起きろよ、貧乏くじ」
「しつっこい!!」
 って声を上げたら、突然見覚えのある涙ぼくろが目に飛び込んで来た。

 頭の中がしびれて目の前の現実が受け入れられず、思わず言葉を飲み込んで凝視すると切れ長の目は瞬きもせず私を見ている。

「え?」って、すっとんきょうな声が漏れた後、ようやく「きゃあああああ!!!」と、大きな悲鳴が飛び出した。 
「なんで、なんで、出てって─────!!!」

「低血圧なのか? 目覚めが著しく悪いな、貧乏くじさんよ。蹴りを入れてきた女は、お前が初めてだ」
 スウェット姿の隼人院長が当たり前みたいな顔をして突っ立って居るのはなぜ?

「出てってください!」
「黙れ、っせぇな」
「どういうこと、どうして隼人院長が居るんですか?!」
「自分んちに居たらおかしいか?」
「私はどこに居るの?」
「俺んち」
「どうして?!」

 眉間には深い皺を寄せ、唇を噛み考えを巡らせてしばらく考え込んだ。

 昨夜はユリちゃんと非枝チームの気が合う先輩たちと飲み屋で女子会をしたんだよね。
 非枝先生チームのスタッフ各人から異動したからってプレゼントをもらった。

 非枝先生や徳縄先輩の件でつらいことやしんどいことを聞いてもらったり、近況報告して飲んではっちゃけて楽しかった。

「絶対に女子会したよ、夢じゃない。その後、どうして隼人院長の家で寝てるの......えっ、寝てる?!」

 当てもなく彷徨っていた眼差しが急に注意深くなり弾かれたように飛び起きてベッドに座った。
  
「正気か貧乏くじ、素っ裸だ。このシャツを羽織れ」
 冷静にシャツを投げられた。なんなのか、目が覚めない。頭が冴えてくれない。

「まさか昨夜のことを覚えていないのか?」
 なんかした? びっくりして、また肩でも叩かれたみたいに体がぴくんと跳ね上がる。

「あんなに二人共燃えたのに」
 私たちなにをしたの?
「既成事実を作った」
「ないない、嘘です、嘘だと言ってください」 
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