自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 ミーティング終了後、今朝も隼人院長は朝輝先生を連れて敬太先生と手術に入った。

 うちのチームに回せばどうにかしてくれると思われているから、救急が数多く回されてくる。
 
 昼に診療したトイプーのアンバー、二歳の女の子。

 ソファから床に落ちてレントゲンで問題なくて、先生たちの診断も帰宅させて大丈夫という結論が出た。

 でもケージが空いていたから、あずかってほしいと拝み倒して安静にしてもらえるようにしてもらった。

 先生たちは心配性だなって笑っていた。笑われても良い、アンバーは帰したらダメな子。

 手術が終わった隼人院長がアンバーの様子を診療した葉夏先生に聞いている。

「アンバーを帰宅させないでください。ケージが空いています。このまま引き続き、あずかりで安静にしてもらってください、お願いします」 
 
 どうにか意見を通そうと二人の間に割って入った。

「なぜそんなに必死なんだ? 根拠は?」
「なんとなくです、ただなんとなくなんです」
 なんて言えば、この独特な感覚が伝わるんだろう。

「なにか説明のつかない胸騒ぎがするんです。この子を帰しちゃいけないって、心がそわそわするんです」

「ふだん、決して強く自己主張しない阿加ちゃんが血相を変えて訴えるなんてよほどのことなのね」

「なんとなく変みたいな理由が言葉に出来ない、なにかがあるんです」

 まだ二年目だから経験年数は関係ないみたい。
 先輩方を見ていても、まったく感じない人もいらっしゃる。

「お前は感受性が強く敏感に感じ取る。それはケアに際して重要なポイントだ」 

 嫌になるくらい当たる。おかげで危機的状況は回避され、飼い主には感謝されることがよくある。

「お前の覚えた違和感。お前のなんとなくを信じる。だから心配するな、この子は帰さない、あずかる」

「私も阿加ちゃんの第六感を信じるわ。アンバーを注視しているから安心して」

「信じてくださってありがとうございます、アンバーをよろしくお願いします」

 安堵に胸を下ろして外来に戻った。

 その後、アンバーの容態が急変して膵臓破裂で隼人院長執刀医のもと葉夏先生も立ち合い、緊急手術になり三時間後無事に終了。

 術後、外来に来た隼人院長から「膵臓破裂まで予測出来たのか?」って質問された。
 医学的な詳細までは、まったく分からない。本当になんとなく胸騒ぎがするだけ。
 
「貧乏」
 貧乏くじって言いそうになったのを、口を一文字にして止めたみたいにして話し始めた。

「お前のおかげで助けられた、ありがとう」
「いいえ、私のことを信じてアンバーをあずかってくださりありがとうございます」

 大樋さんが教えてくれた“率直”が、今効いてきた気がする。
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