自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「院長、昨年は面倒くさがってやらなかったじゃないっすか、毎年そうなんすよね? 珍しいことはよしてください、赤い雪が降りますから」

「おい、ボサッとしていないで飾り付けをしろ。上の方の飾り付けは任せておけ」
 朝輝先生を華麗にスルーして、私に指示してくる。

 隼人院長は首に何個も飾りを掛けたり、ドクターコートのポケットにも飾りを入れたりして要領が良い。

 存在感を誇示するように高くそびえるクリスマスツリーと向かい合う隼人院長。

 見上げると軽々と持て余す長い腕を伸ばし、早速てっぺんに星を飾り付けている。

「俺を見ているな」
 ノールック。へ? 私に言った?
「見惚れてねぇで、さっさと飾り付けを終わらせろ」
 見惚れてなんかいないっていうの、手際の良さに感心していただけだって。

 私たちの関係を秘密にするって隼人院長が言ったのに、なんのアピール?

「阿加ちゃん、見てよ。院長の飾り付けの色合いのセンス良いわね」 

「下の方は大樋さんと私です、可愛く飾れましたよね。これでうちも華やかなクリスマスを迎えられますね」

 なんて話しながら和やかに飾り付けを終えた。
 
 途中からはほとんど隼人院長と大樋さんが、手が何本もあるみたいに機敏に飾り付けていた。

 巨大医療センターは当直、夜勤、緊入、救急とかが常だから、チームの内輪でセンターにいる時間が自然と長くなる。

「クリスマスも年末年始も自由に過ごせないのは当たり前の生活っすね」

「GWだって大忙しだわ、狂犬病予防接種にフィラリア。春はキャンペーンしなくても来院が目白押しよね」 

「GWよりはクリスマスや年末年始の方がすることは楽っすね」

「まぁね。クリスマスやお正月は少しでも雰囲気を作って、小さくても良いからイベントらしいことをして楽しく過ごしたいわよね」

「そのための努力は必要っす。特に阿加ちゃんはね」

 毎日が仕事に追われて、センターの外でなにが起こっているのかすら分からないほど仕事を詰め込みすぎていたら、心が壊れちゃう。

「最初の頃は、よく二人で励まし合ったよね」
「新入りの私の気持ちを一番理解してくれるのは朝輝先生ですからね」

「その笑顔。クリスマスツリーのきらめきよりも阿加ちゃんの満点の笑顔の方が輝いてるよ。ツリーのてっぺんで輝く星までもが嫉妬するよ、阿加ちゃんの笑顔にね」

「朝輝先生ったら、お上手ですね」

「おい、波島(朝輝先生)
「院長、なんすか?」
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