自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 一瞬で柔らかな空気に変えた。

「そうなんですよぉ、どうしたって好きなもんは好きなんです。彼の欠点さえもいとおしくなるんです」
 サバサバした葉夏先生は切り替えが早く、にこにこの笑顔に変わりノロケまくる。

「敬太先生も葉夏先生にメロメロですよね。よく私たちの前で葉夏先生のことを自慢していますよ、気付いたらいつもです」

「あらそうなの? そんなに自慢してるの? 人前で困っちゃうわぁ、もうホント敬太ってバカね」
 凄く嬉しそうで溶けちゃいそう。

「葉夏先生、いいなぁ。そこまで愛されていて、葉夏先生も大好きになれる人がいるって」 

「やだ阿加ちゃん、こんな可愛い子に彼氏いないの? 嘘でしょ、言ってよ紹介してあげるわよ」

「矢神先生はフットワークが軽いから、すぐに紹介してくれるわよ。良かったわね、阿加ちゃん」
 
「一人前にもなっていない新人が男にうつつを抜かしている場合ではない、恋愛は後まわしだ。まだまだ覚えなくてはいけないことが山ほどある」

「院長、お堅いですよ。恋愛が力になることもありますよ、私に敬太がいるように」

「私も夫がいてくれたから恋愛中から仕事を頑張れましたよ」

「と、二人は言っているが、お前はどうなんだ。 紹介されたいのかされたくないのか」
 顎先を上げ気味で口角を少し下げて不満そう。

「考えてみます」
 なんて答えて、ちょっとからかってみたくなった。
「考える暇があるなら仕事のひとつも覚えろ」
「すみません、そうですね」
 これくらいにしておこう。

「葉夏先生、大樋さん。私には恋愛は早すぎます、まずは勉強第一でした。これからもご指導よろしくお願いします」

 遠くを見る振りをして、ちらりと隼人院長を見たら二人にバレそうなほど満足そうな表情。
 
「そうそう、矢神先生。それでイブのご予定は?」 

「その話をしてたんだった。敬太の御学友が歴史ある高級旅館の経営者一族で、イブはそちらで過ごさせていただくの」

「俺の親父の学友は、海外の賓客を(もてな)す歴史ある一流ホテルの創業者でよく利用させてもらっている」

「院長のお父様も塔馬先生の御学友も素晴らしいですね、羨ましいですわ。いつか私も夫とご利用させてくださいな」
 
 隼人院長は私の前だから必死にアピールしているのかな。隼人院長のプライドをくすぐる大樋さんのフォローに、さすがと唸ってしまいそう。

「矢神先生、塔馬先生と素敵なイブをお過ごしくださいね」
「ありがとうございます、この日だけは彼女の私だけの敬太ですから」

 彼女は強くなくちゃやっていけない。よく覚えておこう。
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