自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
第七章 怪しい隼人院長
 おかしい、怪しい。

 ここ数日は、この二つの言葉で私の頭の中はクエスチョンマークがいっぱい。

 非枝先生が表向きの理由は自主退職というかたちでクリーレンを去ってから新しいチームリーダーが来て数ヶ月。
 同期のユリちゃんのいるミーティングルームに出向いた。
 
「ユリちゃん」
 ぐすん。
「どうしたの? 泣きそうな顔して。もう意地悪な人たちは居ないじゃん?」
 徳縄先輩は隼人院長に激怒されて、二度と私に近寄らないって約束した。

「違うの、もっと深刻なの。この何日か隼人院長の動向が怪しいの」
 帰宅したと思ったら、すぐに用があるって出て行っちゃって深夜に帰宅とか最近おかしい。

 当直や夜勤がなくて、せっかく久しぶりに一緒に居られる日なのに会話もそこそこに出掛けちゃうし。

 二人で当直と夜勤の夜は、なにかあったらPHSに連絡をくれってどこかに行っちゃう。
 私は持ち場を離れるわけには行かないからやきもきする。

 今までの鬱憤を晴らすようにユリちゃんに話し続けた。

「絶対、私に隠しごとをしてる。コソコソしてる、おかしい。もう私に飽きたのかな、倦怠期っていうやつなのかな」

「あれだけ院長のこと嫌だ嫌だと拒否って嘆いていたのは、どこのどなただっけ? どういう風の吹き回し?」

 そ、それはそうだけれど......。違うの、私が嫌なのはキスと既成事実なの。まさか、そんなことユリちゃんに言えるわけないし。

 っていうか、私って隼人院長のこと好きになってきている?

「冗談だよ、尾行する?」
「ユリちゃん、隼人院長は外車。私たちの足じゃ追い付けない」
「そっかぁ。なんか良い方法ないかな」  

「女子会のときみたいに、隼人院長の仕込みに一役買ったり口止め料もらったりしていない?」

「めちゃくちゃ疑いのまなざし。ないない、今回は誰にも秘密の行動なんじゃない?」
 嫌だ、どうしよう。居ても立っても居られない。

「明日は初めてのクリスマスイブだから、なにかサプライズでも仕掛けているんじゃないの?」

「ないない、全然そんなムードない。あっ! もしかしてユリちゃん、また一役買ってる?」
「だから、私は今回のことは知らないってば」

「隼人院長がサプライズなんかすると思う? やるタイプじゃないでしょ」
「私、そこまで院長のこと知らないよ」
「あ、そっか」
 それもそうだ。
 
 とにかく隼人院長がサプライズなんて、そんな良いものじゃない、怪しい。

「今日はこれで上がりでしょ? 帰宅したらお腹痛いとか言ってみたら? 引き止め作戦決行、さすがに出掛けないよ」

「それ良いアイデア、ありがとうユリちゃん」
「友よ成功を祈る」
 元気に送り出してくれたユリちゃんに励めされて院内を出て駐車場の脇を通る。

 真冬の薄暗い景色の中、駐車場のライトは煌々と周りを照らし、いつもの場所に視線を馳せると指定席みたいに隼人院長の大きな外車が停まっていた。

 まだ仕事か。隼人院長の愛車の横を通り過ぎようとした。
「あっ」
 思わず出たのはひと声だけ。その後は車内を見て喉が詰まったみたいに声が出ない。

 嘘でしょ、どうしてなの? 
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