自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「海外から帰国した青年が飛んでもなく有能でな、彼に任せておけば安心なんだよ。爺ちゃんの出番はないんだ」

 アハハハって陽気に笑って楽しそう。

 その人のおかげで隠居出来て、今こうしてゆったり暮らせているって、ずいぶん感謝している様子。

「麻美菜が彼と結婚してくれたら嬉しいな。爺ちゃんは、ひ孫が継いでくれるのまで見たいんだ。叶えてくれたら思い残すことはないなぁ」

 笑顔いっぱいのお爺ちゃんの期待に答えようって今なら思える。

「今度、会ってみないかい?」
「私、凄く忙しいの。仕事に慣れて余裕が出来たらね」
「それはいつなんだろうねぇ、三十分でも良いんだけどなぁ」
 独り言みたいにつぶやいていた。

 まだまだ気力体力が十分に有り余っているらしくて、都会の広大な土地で趣味で畑を耕しながら優雅に独り暮らしをしている。

 子どものときから遊びに来ていて、大人になった今でも大好きなお爺ちゃんに会いに来る。

 親がひとり暮らしを許可してくれたのも、お爺ちゃんが近くに住んでいてくれるから。

「今夜は爺ちゃんが作った野菜をたっぷり入れた豆乳鍋だったんだよ。それに野菜たっぷりたまごサラダ」

「ありがとう、いただきます」
「〆にラーメンを茹でてあげるからね。大好物だもんね」 

 お爺ちゃんって、子どものときに私が大好物だったものをずっと大好きだと思っていて、いつも麺類を出してくれる。

「白菜やネギは冬の野菜だから、やっぱり冬の方が甘くないかい?」
「とろとろしていてとっても甘くて美味しいね。お肉もお豆腐も大根もきのこも、ぜんぶ美味しい」

 テーブルの向かい側にいるお爺ちゃんが目を細めて頬を緩ませ、ずっと私を見つめている。

「お爺ちゃん、多き乃の大福買って来たから、あとで食べよう。お婆ちゃんにお供えして来た」

「いつも爺ちゃんの大好物をありがとう、楽しみだなぁ」

 浅黒い肌は彫りが深く精悍な顔付きは若々しくて、まだまだ爺ちゃんって言葉が似合わない。

 孫に会えて嬉しそうにしているお爺ちゃんだよ?

 まさか隼人院長と同居していて、その隼人院長が大樋さんと不倫しているから帰りたくないとは口が裂けても言えるわけもなく。

 お爺ちゃんは、どうしてこんな時間に突然私が来たか、なにか察しているんでしょ。
 でも、なにも聞かずに普段のまま接してくれて優しい。

 何時間もあたたかな時間を過ごして泊めてもらって、翌朝はお爺ちゃんの家から出勤した。

 つまり、外泊をして今センターについた。

「おはようございます」
 医局に入ると薄暗くて人の気配がまったくない。いつもなら誰かしら居るのに。
 耳がしんしん鳴る。不気味なくらい静かな医局はなんだか怖い。

 特に朝輝先生は医局に住んでいるんじゃないかと思うほど家に帰らないから、いっつも葉夏先生に怒られている。

 その朝輝先生が居ないっていうのが珍しい。もしかして救急にでも駆り出されているのかな?
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