同期のふたり〜高山と谷本の場合〜
土曜朝9時
土曜朝9時
「う……あったま痛ぇ……」
土曜日の寝覚めは最悪だった。まあ、昨日飲み過ぎた自分が悪い。
自分で言うのも何だが、ここ半年は仕事に懸けていた。年明け早々、会社の新年会で、ベテランの原さんからそろそろ谷本もリーダーやっていい頃だぞと話を振られ、プレゼン資料の作り方からチームの動かし方まで熱心に話してくれた。原さんに助けてもらい練った企画を課長に見てもらっては直す事10回あまり、やっと部長決済までこぎつけたのが3月。そこからチームで動く事5ヶ月。大小のトラブルも乗り越え、一昨日、無事リリースとなった。
チームのメンバーには本当に感謝している。世話役として入ってくれた原さん、技術部から加わってくれた井田さんと佐野さん。同期の高山は不慣れなリーダーの俺をさりげなくフォローしてくれ、率直にダメ出しもしてくれた。牧原課長は女性管理職ならではの細やかさで俺を励まし、導いてくれた。
「とりあえず、シャワーだな」
冷蔵庫のお茶をグイッと飲み、気合いを入れて風呂場へ向かう。ベタベタになっていた身体を洗い流すと二日酔いも少し薄れた気がした。
「何か食べるか…」
呟きながら脱衣所を出ると、足元で何かが光った。
拾い上げると、それは小さなピアスだった。
「……これ、高山の……」
淡いピンク色をした石のついた、華奢なピアス。高山はよく長い髪を緩く束ねている。少しだけ後れ毛のかかる耳に、よくこのピアスを付けていた。昨日も……
「…………」
「…………」
「…………う、わ……///」
唐突に思い出した。
昨日、俺、何した!!?
何か
むりやり
キスした……かも……
…………やばい…………
ひゅうっと寒気がして、おもわず廊下に座り込んだ。少しでも思い出そうと頭を抱える。一旦落ち着いていた頭痛がぶりかえしてくる。
「……あ――……」
嫌われたかな…
高山の事は前からかわいいとは思っていた。何かきっかけがあれば、はっきりと好きになっていたかもしれない。でも、この所ずっと仕事の事しか考えてなかったし、彼女を作ろうなんて考える余地もなかった。そういう感情から遠ざかっていた。
それが、昨日は仕事から解放されておかしくなっていたみたいだ。もしや、部屋まで送ってくれた高山を引きずり込んで、無理矢理キスしたのだろうか…
キスが気持ちよかった事は覚えているけど、その前後とか、高山がどんな反応だったかとかまったく記憶がない。
「あぁ……最悪……俺最低だ……」
学生時代も社会人になってからも、それなりに恋愛経験はあった。谷本には姉が2人いて、女の子は大切に扱うように、それが男の役目だと散々教え込まれてきた。だから、彼女ができたら自分なりにすごく大切にしてきたつもりだった。同意もないのに触れるとか、無理矢理どうこうしようとか、した事はない。いや、なかった。……今までは。
「あ――……何て謝ろう……」
キラキラ光るピアスをつまんだまま、谷本はしばらく廊下から動けなかった。
「う……あったま痛ぇ……」
土曜日の寝覚めは最悪だった。まあ、昨日飲み過ぎた自分が悪い。
自分で言うのも何だが、ここ半年は仕事に懸けていた。年明け早々、会社の新年会で、ベテランの原さんからそろそろ谷本もリーダーやっていい頃だぞと話を振られ、プレゼン資料の作り方からチームの動かし方まで熱心に話してくれた。原さんに助けてもらい練った企画を課長に見てもらっては直す事10回あまり、やっと部長決済までこぎつけたのが3月。そこからチームで動く事5ヶ月。大小のトラブルも乗り越え、一昨日、無事リリースとなった。
チームのメンバーには本当に感謝している。世話役として入ってくれた原さん、技術部から加わってくれた井田さんと佐野さん。同期の高山は不慣れなリーダーの俺をさりげなくフォローしてくれ、率直にダメ出しもしてくれた。牧原課長は女性管理職ならではの細やかさで俺を励まし、導いてくれた。
「とりあえず、シャワーだな」
冷蔵庫のお茶をグイッと飲み、気合いを入れて風呂場へ向かう。ベタベタになっていた身体を洗い流すと二日酔いも少し薄れた気がした。
「何か食べるか…」
呟きながら脱衣所を出ると、足元で何かが光った。
拾い上げると、それは小さなピアスだった。
「……これ、高山の……」
淡いピンク色をした石のついた、華奢なピアス。高山はよく長い髪を緩く束ねている。少しだけ後れ毛のかかる耳に、よくこのピアスを付けていた。昨日も……
「…………」
「…………」
「…………う、わ……///」
唐突に思い出した。
昨日、俺、何した!!?
何か
むりやり
キスした……かも……
…………やばい…………
ひゅうっと寒気がして、おもわず廊下に座り込んだ。少しでも思い出そうと頭を抱える。一旦落ち着いていた頭痛がぶりかえしてくる。
「……あ――……」
嫌われたかな…
高山の事は前からかわいいとは思っていた。何かきっかけがあれば、はっきりと好きになっていたかもしれない。でも、この所ずっと仕事の事しか考えてなかったし、彼女を作ろうなんて考える余地もなかった。そういう感情から遠ざかっていた。
それが、昨日は仕事から解放されておかしくなっていたみたいだ。もしや、部屋まで送ってくれた高山を引きずり込んで、無理矢理キスしたのだろうか…
キスが気持ちよかった事は覚えているけど、その前後とか、高山がどんな反応だったかとかまったく記憶がない。
「あぁ……最悪……俺最低だ……」
学生時代も社会人になってからも、それなりに恋愛経験はあった。谷本には姉が2人いて、女の子は大切に扱うように、それが男の役目だと散々教え込まれてきた。だから、彼女ができたら自分なりにすごく大切にしてきたつもりだった。同意もないのに触れるとか、無理矢理どうこうしようとか、した事はない。いや、なかった。……今までは。
「あ――……何て謝ろう……」
キラキラ光るピアスをつまんだまま、谷本はしばらく廊下から動けなかった。