磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
「無理して話さなくていいよ。すげえ(おび)えた顔してたくせに。」

悠馬は(いたわ)るような優しい声で言う。真海はそれがくすぐったくてわざと尖った声で返した。

「あんたの為に無理したりしないし。」

「あ、ま、そうだよな・・・。」

即座に納得する悠馬が可笑しくて、真海は気持ちがますます和らぐのを感じた。

「・・・あの人は前の職場の先輩で・・・彼氏・・・だって思ってた。私だけ。」

「・・・。」

悠馬の顔を見るとかなり真面目に話に耳を傾けている。

「とにかく見た目がタイプでさ。ほら、こないだ話したバンドのボーカル──あんたは知らないって言ってたけど──に似てるんだよね。いつも優しい言葉かけてくれる人で。ダメ元で食事誘ったら意外にあっさり付き合うことになって。で、その会社でも今と同じ雑貨の商品企画やってたんだけどさ、彼も同じ部署で。ある日、彼が出した企画が通ったんだよね。それは私が考えた商品だった。彼の前で色んな商品のアイディア語ってたから・・・。出来れば事前に言って欲しかったけど、私は別にそれでよかった。彼の為になることだったら何でもしたかったし。実際何でもしてたんだ。彼の家に行って家事したり、デートのお店調べて予約とったりするのもいつも私だった。自分の誕生日でも。あ、貢いだりはしてないよ?私はそれて幸せだった。夢中になってたんだ。一緒にいてくれさえしたらそれでいいって思ってた。そうやって、私が考えて彼が出した企画はいくつも通っていった。それで彼は高評価を得て昇進して、前から希望してた部署に異動になったんだ。寂しかったけど彼の希望が叶って私も嬉しかった。」

そこで真海はふう、と息を吐いた。息と共になんらかの想いも吐き出すように。
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