磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
「写真立てのことは知ってた。お前がアシスタントさん(彩木さん)チームリーダー(葉吉さん)に謝ってるの聞いてたし。」

「・・・。」

「・・・お前はこの仕事が好きなんだろ?」

悠馬は静かに言った。

「え・・・。」

「じゃあなんでわざわざ同じ職種に転職したんだよ。」

「それは・・・経験したことのある職種の方が採用されやすいし・・・。」

───嘘。本当は商品企画の仕事がまたしたかった。なんでこいつは私の気持ちがわかるわけ?

「お前のデスク、毎月ディスプレイ変わってるだろ。」

「!!気づいてたの?」

「当たり前だろ、隣の席だし。お前いつもは始業ギリギリに来てからトイレやらコーヒーやら行ってるけど、月の初めの日だけは誰よりも早く来て、ディスプレイ変えてるし。今月はヤシの木とかハイビスカスとかハワイな感じで、先月は『ザ・日本の夏』って感じだっただろ。すだれとか蚊取り線香入れる豚の置物とかうちわとか朝顔の造花とか風鈴とかスイカの置物とか置いてて、バソコンの壁紙は花火だし、椅子に置いてある座布団までゴザみたいなやつだったし・・・それがなんていうかさ、アイテムひとつひとつのチョイスもいいけど、配置が絶妙っていうかさ、うるさくないのにデスク全体でいい雰囲気かもし出してる・・・っていうの?正直、毎月結構楽しみにしてる。」

悠馬は照れた様子で俯く。

「そ、そうなんだ・・・。」

寒いわけでもないのに衝撃で少し震えてしまう。

───ど、どうしよう、なんて言ったらいいの?ありがとう、とか?嬉しい、とか?いや、こいつにそんなこと言えない・・・。

「もったいねえよ、お前、才能あるのに、そんな風にこじらせちゃって。」

悠馬のその言葉は真海を騙していた元彼が幾度となくかけてきたどんな甘い言葉よりも彼女の心をグッと強く掴んで激しく揺さぶった。
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