磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
真海は男の後ろ姿を呆然と見ていた。

洒落たライトグレーのサマージャケットと白いパンツを着こなしていて相変わらずだと思った。

それが見えなくなり我に返ると、肩に置かれた悠馬の手を見て反射的にサッと離れる。

悠馬がそれを待っていたかのように無言で運転席に向かったので、真海も後部座席に乗り込んだ。



会社に向かって発車した車内でもしばらく無言が続く。

───北岡が近くに座っているのは会社と同じなのに、車で二人きりだし、あんなことの後で・・・どんな顔でどんな風にしてたらいいのかわからないよ・・・行きは何とも思わなかったのに・・・。

「・・・どういうつもりであんなこと・・・。」

沈黙に耐えかねた真海が口を開く。

「わかんねーけど、戻って来たらお前なんか困った顔してたし。ナンパ的なやつだったら、お前だったら容赦なく追っ払うだろうと思ったから、会いたくないやつなのかなって思ってたら、名前呼ばれてたし。めんどくせーからああ言っただけ。」

───こいつのあんなに怯えた顔初めて見た。そしたらつい・・・。

「べ、別に頼んでないし。」

「別にお前のためにやったんじゃねえし。会社戻んのにあいつが邪魔だったから。」

まるで面倒な事務仕事を処理したかのような口調だった。

「・・・聞かないんだ。あの人のこと。」

───意外に空気読めるんだ・・・北岡のくせに。

「あいつが誰でも興味ねえし。」

───いや、正直ちょっとは気になるけど、絶対聞かれたくないだろうし、聞いても答えねーだろ。

「そうか、そうだよね。」

───私のことなんかどうでもいいだろうしね。聞かれても困るし・・・。

再び沈黙が訪れた。
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