とある教員の恋愛事情
8月27日
約束した日曜日は曇り空だったが、一日屋外で過ごすにはちょうどいい天気だった。
「駐車場着きました」
メッセージを見て若葉は家を出た。
今日は松永が運転を申し出てくれている。
駐車場に出て行くと、私服の松永にドキッとした。薄いグレーのパンツに、アウトドアブランドのTシャツ。スニーカーやバッグは黒系でまとめていて、シンプルだがなかなかお洒落なコーデだった。
「あ、おはようございます。」
松永が笑いかけた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
私服にドキドキした事を悟られまいと、若葉は素っ気ない返事をしてしまった。松永は特に気にする風もなく、車に乗り込んだ。
若葉はというと、告白しようと決めていたので、今日の服は勝負服である。ワンピース…は遊園地ぽくないかな。Tシャツ…はカジュアルすぎ?
悩んだ末に決めたのは、細身のデニムにふんわりしたノースリーブのブラウス。冷房対策に薄い羽織もバッグに入れる。服装がやや無難な分、普段やらないヘアアレンジで女性らしく。メイクも時間をかけて丁寧にした。
「今日、誘ってもらってありがとうございます。俺、行きたいと思ってたんですごい嬉しいです」
「よかったです。夏休み最後で混んでますかね?うちの生徒とかいないといいですけど」
「あー、どうですかね。でも、人多くて分かんないんじゃないですか。中原先生も、今日は全然雰囲気違いますし」
……それは、いい意味で?
詳しく聞きたいが、聞けない。
「あ、今日は先生付けるのやめときます?」
「ああ、そうですね。何て呼びましょうか?」
「え…と、中原さんとか?名前でもいいですけど」
「……若葉」
「!」
不意に呼ばれてドキッとする
「うーん、やっぱり名前は馴れ馴れしいですかね。さん付けにしときます」
「……じゃあ、私もそうします。松永さん」
……なんだ、試しただけか。
情けないが、松永の一言一言に振り回される。
遊園地は家族連れやカップルで賑わっていた。
ドラマとコラボした脱出ゲームは人気らしく、16時からの回しか空いていなかった。整理券をもらい園内をまわる。
若葉も松永も、遊園地に来たからにはアトラクションを制覇したい、絶叫マシンも全然OKというタイプだった。
もういい大人だから、若葉も相手が絶叫マシンに乗りたくないと言えば合わせるが、やはり自分と同じ感覚で楽しんでくれるのは嬉しい。