とある教員の恋愛事情
カフェに着くと、今日は何かのイベントらしく店の外に沢山のキッチンカーが来ていた。
「わぁ、ここで買って外のベンチで食べてもいいね」
そう言いながら見て回る。ホットドッグや焼きそば、レモネード…どれも美味しそうだ。
「ねぇ、私これにしようかな……」
松永を振り返ると、ある店の前で止まっていた。
「あ……」
松永が見ていたのは、あの、三住先生のお店だった。
彼女が接客をしている。
若葉は胸がちくんと痛んだ。
気付かれないよう、さりげなく話しだした。
「あれっ、前に頼んだお弁当屋さんだね!あの方、知り合いって言ってたよね。行ってみよう?」
「あ……う、うん…」
むしろ強引に松永を引っ張っていった。
だって、きっと、ここで会うくらい何でもない。
2人に何かあったとしても、過去の事だ。
「いらっしゃいませー」
そう言って客の顔を見た彼女は目を見開いた。
「えっ!松永くん?」
改めて彼女を見ると、とてもかわいい人だった。小柄で、丸い目は色素が薄い綺麗な色だ。ナチュラルな飾り気のない服装が逆に、彼女の可愛らしさを引き立てていた。
「久しぶり。丘中に配達に行った時以来だね。……あ、もしかして彼女さんですか?配達の時にお会いしましたよね。私、以前丘中で働いていた三住といいます」
彼女はペコリと頭を下げた。
お弁当を買ってから、次の客が来るまで彼女は気さくに話してくれた。
教員を辞めてから、前から好きだった料理の仕事をしようと調理師学校に通った事。普段は小さな店舗で営業しているが、時々今日のようなイベントに出店している事。
松永はあまり会話に参加してこなかったので、若葉が一生懸命聞いていた。
「……」
「……」
良さそうな木陰のテーブルとベンチを見つけ、お弁当を食べる事にした。若葉は何だかどっと疲れを感じた。
「……若葉、何か無理してなかった?」
お弁当を食べながら、松永が口を開いた。
「さっきの、三住…絢香はさ、俺の同期で元彼女なんだ」
「うん…」
「今は何も関わりないけど。先に言っておかなくてごめん」
「ううん、全然平気」
若葉はいつも通りの笑顔を作って見せた。
何もない、か……
帰り道、若葉は心の中で呟いた。
確かに、今、松永にやましい事は無いと思う。そこは信用している。
でも、以前、同期はいるかと聞いた時も、配達に来た彼女を見た時も、さっきも。松永の反応はすごく彼女を気にしているように感じてしまう。
本当にもう何とも思っていない知り合いだったら、もっと自然に声をかけるのではないだろうか。
心の隅に生まれたモヤモヤは、なかなか消えてくれなかった。